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135話 ページ35

それから暫くした後、行事の主役である花火がいよいよ打ち上がり始めた。それまで人だかりでいっぱいだった河川敷には更に多くの人が溢れ、思うように身動きが取れない状態になる程の観客と歓声で、その場は賑わっていた。

黒みを帯びた藍色の空に広がる花火は書いて字の如く火の花で、暗い空と辺りに光をもたらした。今年はあまり乗り気ではなかったけれど、そんなことを忘れさせる程その花火は煌びやかで、思わず歓声を漏らしてしまうくらいに綺麗だった。


結局、私が一番楽しんでしまっているのではないか。先輩たちが花火を見たいと誘ってくれたけれど、正直そこまで花火に興味はないのではないか。

案の定、隣にいる先輩たちは、全く見ていないわけではないが、会話を交えていてあまりその存在を意識していないようにも思える。

やっぱり。男子だもん、花火でそんなに盛り上がったりしないよね。大貴が異常なんだよ。

と、思ったのも束の間だった。


ひとりだけ、彼だけは違ったのだ。

口を開いたまま夜空に浮かぶ花を真っ直ぐと見つめ、瞳にはその光が映りキラキラと輝いている。声を掛けることなど出来なかった。普段彼が見せる、作り出した子どもっぽさではなく、ありのままに、童心に導かれるがままに現れた彼の、子どもそのものとも言える姿を私は目にしたのだ。

私は自分の目を疑った。今目にしている光景は本物か。偽物ではないのか、と。しかしそれは紛れもなく本物で、現実で、私の視線が捉えている慧ちゃんは慧ちゃんであった。

慧ちゃんは夜空に浮かぶ花火に視線を奪われ続けているが、私はその彼の姿に視線を奪われていた。

慧ちゃんがたかだか花火を見たくらいで感動などするはずがない、と、そう心のどこかで決めつけていた。しかし、実際はそうではなかった。私よりも、そこらにいるカップルよりも、子どもよりも、この場にいる誰よりも、彼が一番に心を動かされていた。それは私が今まで知ることのなかった彼の姿だった。

彼はいつもおちゃらけていて自由奔放ではあるけれど、どこか大人びていて、冷静に物事を見据えているから、こんな一面があるだなんて思いもしなかった。

そこで私の中で生まれた感情は喜びではなく悲しみだった。彼のその姿を目にすればする程胸が苦しくなる。

ああ、私は慧ちゃんのことをよく知らないんだ、と、現実を突き付けられたのだから。

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瑠璃瑚(プロフ) - ラベンダー畑さん» ラベンダー畑さん お久しぶりです!以前もコメントくださりましたよね、ありがとうございます!心を抉られるその感覚が伝わっているのであれば、この小説の主旨が伝わったということで嬉しいです。ありがとうございます!お互い、体調には気を付けましょうね(笑) (2018年7月22日 13時) (レス) id: 51c3decb4a (このIDを非表示/違反報告)
瑠璃瑚(プロフ) - 愛奈さん» 愛奈さん ありがとうございます!そう言って頂けると嬉しいです!もっと沢山の方に読んでいただけるよう精進します! (2018年7月22日 13時) (レス) id: 51c3decb4a (このIDを非表示/違反報告)
ラベンダー畑(プロフ) - 再開されてたんですね! とても 嬉しいです! 細かい所とか 覚えてないから また 読み直そうと 思います 大貴の鈍感さが 一つ一つ 心 抉られます 主人公 可哀想 でも 告る方が 楽になるんじゃないかな? 更新 楽しみです 猛暑のなか 体調 気をつけられて (2018年7月21日 19時) (レス) id: ffe5259ca3 (このIDを非表示/違反報告)
愛奈(プロフ) - このお話、とても好きです!なんで赤星ではないんだろう。もっと多くの人に見てもらいたい!更新頑張ってください! (2018年7月21日 16時) (レス) id: 6fc34b8758 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:瑠璃瑚 | 作成日時:2017年5月29日 11時

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