104話 ページ4
「いのちゃんからも何か言ってあげなよ。」
私のテスト結果が書かれた成績表を慧ちゃんに差し出しながら、光先輩は言った。
そういえば、私がここに来てから慧ちゃんは一言も言葉を発していない。先輩達が私の成績表を覗き込む中、慧ちゃんだけはその輪に入らなかった。
どうしてだろう。私の話を聞いて、満足な結果じゃなかったから?
慧ちゃんは差し出された成績表を受け取り、まじまじと私のテスト結果を閲覧する。やっぱり、もっと良い結果を残すべきだったのだろうか。慧ちゃんには先輩達よりも早くに今回の件を話していたから、この数週間、何をしていたのかと思われているのかもしれない。しかし、彼の口から出た言葉は、私の予想とはかけ離れたものであった。
「頑張ったな。」
と、たった一言。その一言だけを言って、彼は口を閉じた。
「それだけかよ!」
と、先輩達が野次を飛ばす中、私はある異変に気付いた。
「慧ちゃん?...どうしたの?」
黙ったまま俯く彼に、私は違和感を感じた。何故なら、彼はいつも一言余計だからだ。彼の今の一言は予想外なものではあったが、それならそれで、何か余計な一言を付け加えるのではないかと思った。
しかし、今の彼は違う。
何も言わないだけならまだしも、俯いて顔を伏せてしまった。何かがおかしい、何か変だ。そう思った。果たして、私の感じたものは正しかった。
だからこそ、顔を上げた彼の顔を見た時、私はすぐに声を発することが出来なかった。
私の感じた通り、彼はおかしかった。おかしいと言えば語弊があるかもしれない。だけど、それ以外の言葉が思い当たらないのだ。
いつもの彼からは想像出来ない姿だから。いつもおちゃらけたり、時には真剣だったり、ヘラヘラと笑っている彼が、そんな彼が、目に涙を浮かべている姿を想像するなんて、出来るはずがなかった。
そんな彼を前にして、私は固まるだけだっただって、そんな彼を見たことがなかったから。
私は慧ちゃんと目を合わせたまま動けないでいた。動くことはおろか視線を逸らすことも出来ないでいる。
「おいおい、いのちゃん、何で泣いてんだよ。」
慧ちゃんの異変に気付いた光先輩が声をかけた。先輩は笑って慧ちゃんに話しかけるけれど、その間も私は依然として動けないでいた。けれど、慧ちゃんは私と合わせていた視線を逸らし、光先輩の方へと視線を移すと、笑みを浮かべた。
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瑠璃瑚(プロフ) - ラベンダー畑さん» ラベンダー畑さん お久しぶりです!以前もコメントくださりましたよね、ありがとうございます!心を抉られるその感覚が伝わっているのであれば、この小説の主旨が伝わったということで嬉しいです。ありがとうございます!お互い、体調には気を付けましょうね(笑) (2018年7月22日 13時) (レス) id: 51c3decb4a (このIDを非表示/違反報告)
瑠璃瑚(プロフ) - 愛奈さん» 愛奈さん ありがとうございます!そう言って頂けると嬉しいです!もっと沢山の方に読んでいただけるよう精進します! (2018年7月22日 13時) (レス) id: 51c3decb4a (このIDを非表示/違反報告)
ラベンダー畑(プロフ) - 再開されてたんですね! とても 嬉しいです! 細かい所とか 覚えてないから また 読み直そうと 思います 大貴の鈍感さが 一つ一つ 心 抉られます 主人公 可哀想 でも 告る方が 楽になるんじゃないかな? 更新 楽しみです 猛暑のなか 体調 気をつけられて (2018年7月21日 19時) (レス) id: ffe5259ca3 (このIDを非表示/違反報告)
愛奈(プロフ) - このお話、とても好きです!なんで赤星ではないんだろう。もっと多くの人に見てもらいたい!更新頑張ってください! (2018年7月21日 16時) (レス) id: 6fc34b8758 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:瑠璃瑚 | 作成日時:2017年5月29日 11時