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113話 ページ13

「ああ、文化祭ぶりですね。伊野尾先輩。」



文化祭ぶり、という言葉を聞いて、私は当時のことを思い出す。



「でも俺、有村と同じクラスなんで、俺が連れて行きます。」



ああ、そういえばこの二人って...



「いや、俺が連れて行くって。同じクラスなら担任に伝えておいてくれる?」



確か、文化祭の時もこんな感じに、不穏で異様な空気を醸し出していたっけ。なんてことを、ガンガンと頭が痛む中考える。ああ、今はそんなことなんてどうでもいいから、早くこの頭痛をどうにかして欲しい。

そんな私の願いを叶えてくれる救世主は、突然、あの時のように怒号を上げながら現れた。



「伊野尾!てめぇ、またサボりか!」


「げっ、光...」



あの時の、文化祭の時のように、慧ちゃんを探し求めて現れたのは光先輩だった。先輩の突然の登場に、不穏だった空気が一瞬にして壊れた。



「お、Aちゃんも居るじゃん。って、あれ?どうした?」



返事も挨拶も返さない私を不審に思ったのか、先輩は私の顔を覗き込んだ。私は先輩と目が合うと、首を左右に振った。それは限界を表す私なりのジェスチャーだった。喋る気力なんてものは、私には残っていなかった。



「ありゃりゃ。Aちゃん、保健室に行こう。」



先輩はそれを読み取ってくれたのか、私が頷くよりも先に、私の腕を引っ張り強引に立たせると、そのまま私の手を引いてを歩かせた。



「ちょ、先輩、俺が連れて行きますって!俺、同じクラスなんで!」



歩き始めた私達の後方から、岡田くんが声を上げた。しかし、先輩は彼の意見に賛同する事はなく、



「じゃあ君は担任の先生に報告しておいて。保健室には俺が連れていく。いのちゃんは俺がAちゃんを保健室に連れていってることを担任に伝えて。以上よろしく。」



先輩は後ろを向きながらペラペラと彼らに指示を出すと、再び前を向いて歩き始める。



「多分、軽い熱射病だと思うんだ。涼しい場所で横になれば良くなると思う。全く、あの二人も気付いてやれよ。可哀想そうに。」



前半はきっと私に向けてだろうけど、後半はきっと独り言だ。私の腕を引いて歩く先輩の後ろ姿が、この時、とても大きく見えた。先輩は私にとって、友達というよりも、兄のような存在に感じられた。慧ちゃんとはまた別のお兄ちゃん。面倒見がいいというか何と言うか。先輩は素直に頼れる存在であった。

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瑠璃瑚(プロフ) - ラベンダー畑さん» ラベンダー畑さん お久しぶりです!以前もコメントくださりましたよね、ありがとうございます!心を抉られるその感覚が伝わっているのであれば、この小説の主旨が伝わったということで嬉しいです。ありがとうございます!お互い、体調には気を付けましょうね(笑) (2018年7月22日 13時) (レス) id: 51c3decb4a (このIDを非表示/違反報告)
瑠璃瑚(プロフ) - 愛奈さん» 愛奈さん ありがとうございます!そう言って頂けると嬉しいです!もっと沢山の方に読んでいただけるよう精進します! (2018年7月22日 13時) (レス) id: 51c3decb4a (このIDを非表示/違反報告)
ラベンダー畑(プロフ) - 再開されてたんですね! とても 嬉しいです! 細かい所とか 覚えてないから また 読み直そうと 思います 大貴の鈍感さが 一つ一つ 心 抉られます 主人公 可哀想 でも 告る方が 楽になるんじゃないかな? 更新 楽しみです 猛暑のなか 体調 気をつけられて (2018年7月21日 19時) (レス) id: ffe5259ca3 (このIDを非表示/違反報告)
愛奈(プロフ) - このお話、とても好きです!なんで赤星ではないんだろう。もっと多くの人に見てもらいたい!更新頑張ってください! (2018年7月21日 16時) (レス) id: 6fc34b8758 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:瑠璃瑚 | 作成日時:2017年5月29日 11時

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