傷心物語 3

111話 ページ11

｢はあ、面倒だなあ...｣



夏休みを明日に控えた今日、つまり終業式の日、終業式を控えた私達生徒一同は大掃除をしていた。終業式が始まる前の約一時間の間、私達は学校を掃除しなければならない。しかもよりによって私は中庭担当だ。

炎天下で暑いし、範囲は広いしで怠さは倍増。それに...



｢うわあああ！蝉！蝉！！｣



どこぞの誰かさんの馬鹿でかい声で暑苦しさも倍増だ。



｢有岡、さっきからうるせーよ！夏なんだから蝉ぐらい居るだろ。｣



と、同じ掃除担当班に振り分けられたクラスメイトの岡田くんを始め、他の班員達が文句を言う。彼のことは相変わらず苦手だが、その意見には大いに賛成したいところだ。



｢何で皆平気なの！？わけわかんねぇ！｣



少し離れたところから、彼らの賑やかな声が聞こえてくる。

少し離れたところ...というのは、つまりあれだ、サボり。雲一つ無い炎天下の中、約一時間も休憩無しに外にいるのは辛い。しかし、掃除終了時刻になるまで教室に戻ってはいけないのだ。彼らには申し訳ないけれど、私は中庭の隅に植えられている木の木陰に移動していた。

木の下には小さな古びたベンチが置かれていて、私はそこに腰を下ろし、身体を休ませていた。

陽射しは遮られるが、風は無く、木陰であってもむしむしと暑い。私はブラウスの胸元を摘み、パタパタと風を送る。



｢何してんの？｣



と、私しか居ないはずのこの場所で、背後から突然声を掛けられて、私は慌てて後ろを向く。蝉の鳴き声で相手の声はよく聞こえなかったけれど、先生だったら面倒臭いことになるなと思いながら、私は相手の顔を見るため顔を見上げた。



｢あ...、慧ちゃん。｣



そこにいたのはクラスはおろか、学年さえもが違う慧ちゃんであった。どうしてこんなところに居るのだろうか。そんな考えが顔に出ていたのか、慧ちゃんは一方的に語り始めた。



｢ここね、俺のお気に入り場所なんだ。ゴミ捨てで外に出たから、ちょっと涼んで行こうかなと思って立ち寄ったんだ。でもまさかAがいるとはな。｣



何が嬉しいのか、慧ちゃんはニコニコと笑みを浮かべながら、私の隣に腰を下ろした。風が無くてただでさえ暑いのに、隣に座られたら身体が密着してしまい余計に暑い。それに、涼むと言ったって、風が無いのだから、今日の気候では涼めることは出来ない。そんなこと馬鹿な私でも分かるのだ、慧ちゃんも分かっていてるだろうに。

112話→←110話

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す