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三年前の大火事の記憶が蘇る。
次々と体が燃えてゆく、あの感覚。
熱くて、痛くて苦しくて。
なのにお父さんは来てくれなくて。
思い出し始めてしまったら、もうダメだった。
Aの「ただいま」だけであんなに安心できたことに、荼毘自身も驚いた。
「寝てないじゃん…」
Aはいつも風呂を出るのが早い。
ドライヤーで乾かしてきたらしい髪をなんとなしに触りながら、Aはソファに寝っ転がったままの荼毘を見下ろす。
荼毘が黒染めしたことで、もう床に落ちた抜け毛がどっちの物かすぐに分かるようになっていた。
「ベッド行くよホラ」
「……??」
当然のように荼毘を引っ張って寝室にインするAに、はてなはてなな荼毘。
そんな彼の気も知らず、Aはさっさと布団をかぶってしまった。
普段は一つしかないベッドとソファを交代で使っているのだが、どうやら今日は、同じベッドで寝るということらしい。
血迷ったか、と訝しむ荼毘だったが、「一人だと寒い」というAにとりあえず思考放棄した。
まァ確かに、二人で寝るのも悪くないかもしれない。
少なくとも冬は、風呂上がりのくせにもう冷えているAの手を温めてやれるし。
現にほら、彼自身とは正反対の冷たくない荼毘の腕を抱きしめて、Aは既にすうすう寝息をたててる。
悩みなんて無さそうな顔。
親に捨てられたも同然のくせに、家族全員の揃った家でぬくぬくしてそうな顔。
そんな彼の年の割に小さな背中から腕を回せば、荼毘の中で死んだはずの燈矢が生き返った気がした。
きっと気のせいだ。
だけど、絹のように白い髪の毛も、冷え性なAの体温もお母さんに似てて、懐かしくて、でもやっぱりどうしようもなかった。
Aを起こさないよう、静かにぎゅっとするくらいしか、できなかった。
いつもよりよく眠れた。そう思ったのは多分、気のせいじゃない。
その翌日、正午直前に起床したAは驚いた。
昨夜同じベッドで寝たはずの荼毘がいない。
あれ。幻だったっけ。
違いますよAさん。
彼なんか"個性"訓練始めちゃいました。
Aは荼毘の心情がミジンコ程も理解できなかったけど、まあ復活したようなので良しとした。
昨日せっかく巻いてやった包帯を燃やして帰ってきたときは、普通に何コイツと思った。
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篠瀬(プロフ) - 金爽さん» こちらこそ、読んでいただき、コメントもくださりありがとうございます😆そう言っていただけると本当に嬉しいです!! (4月1日 8時) (レス) id: e526e5a105 (このIDを非表示/違反報告)
金爽(プロフ) - あ、、さ、さいこう。ありがとう、ござい、ます。 (4月1日 0時) (レス) @page35 id: 39dbcee998 (このIDを非表示/違反報告)
篠瀬(プロフ) - ありがとうございます!とっても励みになります!!もっと面白い話をお届けできるよう、これからも頑張ります!! (3月27日 10時) (レス) id: e526e5a105 (このIDを非表示/違反報告)
本好き - 面白かったです(^o^) 更新頑張って下さい! (3月27日 9時) (レス) @page25 id: 6183cd2648 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:篠瀬 | 作成日時:2024年3月11日 11時