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火を操る"個性"。
三年前少し話題になった瀬古杜岳での山火事。
轟炎司の住所を示していたマップ機能の履歴。
エンデヴァー関連のニュースにこの取り乱しよう。
Aはとりあえず、床に粉々に散らばった花瓶か何かの破片を避けつつ、ソファの後ろで荒い呼吸を繰り返している荼毘の隣にしゃがみ込んだ。
「…手、火傷しちゃってる」
痛まないよう細心の注意を払いながら、荼毘の手を取る。
同時に、テレビのリモコンのボタンに指をかけ電源を落とした。
暗くなった部屋で、互いの顔は殆ど見えない。
Aは無言で、荼毘の怪我していない方の手を引きソファに座らせた。
救急箱を取ってくるついでに、無駄に洒落た間接照明の電源を点けてくる。部屋が淡く明るくなった。
「……悪い」
なんとか呼吸を落ち着かせた荼毘は顔を伏せたまま謝罪する。
「ん」というAの短すぎる返事に、いつも通りだと少し安心した。
だが、そんな荼毘の内心を知ってか知らずか、はたまた、なけなしの良心が彼を放って外出した罪悪感に蝕まれたか、Aは珍しく言葉を続けた。
「…大丈夫。
君の心の代わりに、物が壊れてくれたんでしょ。
いいよ」
聞いている荼毘がくすぐったくなるほど、優しい台詞だった。
荼毘の手に、慣れない様子で包帯を巻く指の先まで、優しかった。
終始無表情だったくせに、だ。
「僕は風呂行くけど。…もう寝てたら」
手当を終えて、宣言通り脱衣所へ引っ込むA。
これもまた珍しく素直にソファにダイブした荼毘だったが、すんなり眠れるはずもなかった。
エンデヴァーの活躍を久しぶりに見た。
液晶越しでさえ分かる、傲岸不遜ぶり。
変わらぬ父の様子に、荼毘の中の怨嗟の炎に薪が焚べられた。
あの日、三年ぶりに訪ねた轟邸は、あの頃と変わらない地獄だった。
生前の「燈矢」の扱いへの罪滅ぼしとでもいうように豪奢な仏壇の前に立ち、焼け死んだ「燈矢」に手を合わせた。
あれから積もりに積もってきた感情が高ぶり、涙の代わりに蒼炎が身体から溢れた。
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篠瀬(プロフ) - 金爽さん» こちらこそ、読んでいただき、コメントもくださりありがとうございます😆そう言っていただけると本当に嬉しいです!! (4月1日 8時) (レス) id: e526e5a105 (このIDを非表示/違反報告)
金爽(プロフ) - あ、、さ、さいこう。ありがとう、ござい、ます。 (4月1日 0時) (レス) @page35 id: 39dbcee998 (このIDを非表示/違反報告)
篠瀬(プロフ) - ありがとうございます!とっても励みになります!!もっと面白い話をお届けできるよう、これからも頑張ります!! (3月27日 10時) (レス) id: e526e5a105 (このIDを非表示/違反報告)
本好き - 面白かったです(^o^) 更新頑張って下さい! (3月27日 9時) (レス) @page25 id: 6183cd2648 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:篠瀬 | 作成日時:2024年3月11日 11時