第177話「少年にとっての」中島敦 ページ35
「如何して、此処が……?」
地下への階段を降り乍らそう問う僕に、一歩先を行く太宰さんは振り返ると微笑む。
因みに、いろはちゃんは此処には居ない。
この場所への出入り口は1つだけらしく、太宰さんと話がしたい、と云った僕に気を遣ってくれたのか、出入り口を護ってくれている。
「敦君が降ってくる方角をずっと探して居たからね。」
何時もの様に茶化した様子でそう云った太宰さんは、心成しか何時もより感情の色が薄い気がした。
誤魔化すかの様に、太宰さんは話を続ける。
「善くやったよ、敦君。これでもう横浜は安全だ。……と云えれば善かったのだけど。」
「何か未だ……問題が?」
溜息を吐く太宰さんに、僕は思わず問い返す。
すると、太宰さんは何処か遠くを見るような目で、表情で答えて下さる。
「Qが敵の手にある限り、連中は何度でもこの大破壊を起こせる。唯一対抗可能な協力者である異能特務課も活動凍結された。これ以上は……。」
困った様な顔でそう云った太宰さんに、僕には1つの
この街を……ヨコハマを護るなら、きっとこれしか無い。
「……太宰さん。昔読んだ古い
僕は、手を強く握る。
此れなら、きっと護れる筈だ。
暖かくてきらきらとしていて、大好きな、愛すべきこの街を。
「どんな
太宰さんのその言葉に、僕は真剣な顔をして顔を上げる。
「協力者です。」
其れから、確りとそう云った。
僕が護りたいのは……いろはちゃんが好きだと云っていたこの街だ。
僕は、いろはちゃんの、あの幸せそうな笑顔を、護りたいのだ。
第178話「及第点の発想」中島敦→←第176話「男にとっての」
4人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:業猫 | 作成日時:2019年9月9日 16時