第160話「行方不明の虎」夢主 ページ18
「……居ないのですか?」
『嗚呼。童も其方が出て行って少し経った辺りに何処かに行った故。』
「そう、ですか……」
私は礼を云うと姐様との電話を切る。
……あれから数時間。
この街の中枢にまで及ぶ私のネットワークを持ってして、敦くんは行方不明のままであった。
最後の目撃情報は鏡花ちゃんと共に警官と出会ったこと。
その後、少し走っていく姿が目撃されている。
故に、最後に一緒に居たとされる鏡花ちゃんに会いに行くのが最善。
……なのだが。
「……35人殺し逮捕、ね。」
私は仲のいい軍警の方からのメールを見るなり、溜息を吐いた。
幾ら私と云え、私だけの力では其れだけの重罪人と相見出来る筈が無い。
詰まり……特務課に、何らかの利益と引き換えに取引せねばならないのだ。
勿論、こんなこと私が一人でする意味はない。
理論上は。
幾ら力が有れど、私は一調査員に過ぎないのだから。
探偵社に報告し、後は指示を乞えば善いだけだ。
けれど。其れでも。
私がせねばならないと思った。
故に……
「……失礼します。お久しぶりですね、安吾さん?」
私は微笑み、そう云った。
「やれやれ…貴方達師弟は僕に厄介事を持ち込む趣味でもおありで?」
「厄介事?真逆。私も太宰さんも、目的の為の最善策を選んでいるだけです。」
微笑みながらそう云った私を見るなり、安吾さんは呆れたような顔になる。
其れから大きな溜息を一つ吐くと真面目な顔になった。
「……其れで?貴女は一体どんな取引を僕……厭、特務課に持ってきたのですか?」
私は微笑みながら答える。
「35人殺し、泉鏡花との面会の場を設けて頂きたいのです。」
……と。
4人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:業猫 | 作成日時:2019年9月9日 16時