第155話「鍵と重荷」 ページ13
暁が一人思考の旅路に着いた頃……虎を身に宿す少年、中島敦は油断しきった自身の想い人をちらりと見ると、彼女の分まで……目の前で寝台の上に静かに座っている金色夜叉を操るその人物……尾崎紅葉に対し、最大の警戒をする。
「……」
…重い沈黙がそこには居座る。
数秒の筈が、何時間にも引き延ばされでもしたように、敦には途轍もなく長く感じられた。
「……鍵なら、姐様の頭の中と…私だよ。」
その沈黙を破ったのは、常に微笑んでいる少女……暁であった。
「……太宰の掛ける鍵は目に見えんでのう。私と云え、愛らしい少女を命令でも無いのに殺すのは好きでは無いからの。……で?何用じゃ、童。私を消しに来たか?」
少女の言葉を聞くと、少し肩の力が抜けたらしい尾崎は目を伏せると、湯飲みを口元まで持ってくると茶を飲みながらそう問いかけた。
暁は少し呆れたように肩を竦めると、「真逆。」と云う。
「太宰さんが姐様の価値を見誤る訳が有りません。理由は他に有ると見るべきです。……間違ってる、敦くん?」
そう云うなり、暁は敦に少し微笑みかける。
微笑みかけられた敦はというと……
「……」
「何じゃ、詰まらんの。図星か。」
俯いていた。
そんな敦を見た尾崎は、自身の言葉通り詰まらなそうな顔をする。
「……違う。僕は、ただ皆を守ろうと……!」
追い込まれたように拳を握るとそう云った少年を、女は軽蔑したように見詰め……その背後では、少女が心配そうに……気を掛ける様に、見ていた。
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作者名:業猫 | 作成日時:2019年9月9日 16時