第151話「護りたいもの」夢主 ページ9
「……でも、私がもっと強ければ……」
「でも、なんて有りませんわ。」
「けど……」
「……いろはちゃん。」
ナオミちゃんは、駄々っ子を叱る様に手を腰辺りに中てると、私の名前を呼んだ。
それは、いつの日かのお母さんの様に優しく慈悲に溢れた色で溢れていた。
「いろはちゃんは敦さんに敗けたのよ。その事実は、この先どう足掻いたって変わらないわ。…でも、私も春野さんもいろはちゃんに感謝しているってだけじゃ……いろはちゃんには、足りないのかしら？」
ナオミちゃんの優しいその言葉に、私は自然と心の中に光が灯っていくのを感じていた。
「いろはちゃんが完璧主義なのはナオミもよく知ってるから……満足しろとは云わないわ。でも……たらればで強くなれる筈が無いのよ、いろはちゃん。最も……いろはちゃんよりも弱い私が云うことじゃないかもしれないけれど。」
そう云うと微笑んだナオミちゃんに、私は小さく頷いた。
今、声を出したら嬉しさで泣き出してしまいそうで。
思えば、最後に誰かに感謝されたのは何時だったか判らない位に昔のことだった。
「……いろはちゃん。私達を守ってくれて、有難う。」
止めの一言だった。
それは、優しくて暖かくて、私だけに向けられたそれは、途轍もなく贅沢な言葉だった。
「……私、ずっと誰かに、ずっと……」
私の頬を伝っていく涙を見たナオミちゃんは、少し微笑むと私の涙を拭き、それから抱きしめる。
「えぇ。いろはちゃんが求む言葉は、全てナオミが用意してあげます。だから……一人で抱え込まないで。だって、私達……大切な友人なんですもの。」
私の心の多くを占めていた劣等感なんかが、ナオミちゃんの優しさで消えていく。
敦くんだけじゃない。
太宰さんだけでも、ナオミちゃんだけでもない。
私は、私の護りたいもの全てを護りたい。
私は、ヨコハマという街が好きなのだ。護りたいのだ。
……だから、強くなりたい。
全てを護れる強さが欲しい。
何時からこんなに貪欲になったのか……＿＿否、最初から私は貪欲だったのか。
だって、私の座右の銘は「求めるならば強欲に」なのだから。
何時だって強欲に、貪欲に、自由を……護れる強さを求めていきたい。
……それが、私＿＿暁いろはなのだから。
私は、自分を見つけ直せた気がしていた。
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作者名：業猫 | 作成日時：2019年9月9日 16時
