第149話「王女の優しさ」夢主 ページ7
何かに怯える敦くんを、私はただ静かに見詰める。
そんな私を、異能を解いたことにより解放されたナオミちゃんは、私の方に駆け寄ってくると心配そうな顔のまま、背中を摩ってくれていた。
私だって人間だ。
聖人君子じゃないし、怖いものは怖い。
……例えば、今さっき私の命を握っていた敦くんなんて、怖い物の筆頭だ。
けれど、私はそれでも、声を掛けようと、近づこうとする。
「いろはちゃ……」
「違う!僕はただ、皆を守ろうと……!」
「いろは!大丈夫か!」
「けほっ……大、丈夫……です…!それより、呪いを……!」
「……嗚呼!」
私は、そう、何とか返事した、その時だった。
敦くんは、叫びながら暴走する。
まるで何かから逃げようとするように。
まるで、何かに怯える小さな子供のように。
「やめろ……、やめろぉぉォオオオッ!」
私は、もう一度王女を呼び出す。
本当は、今の私じゃ一日に二回呼び出すなんて自i殺行為だ。
暴走したって可笑しくない。
……それでも、私は敦くんの傍に居たいと思った。
支えてあげたいと思った。
「僕は違う!僕は、ただ……!」
始まりは、虎の異能を抑える為の教育係で、只の友人で。
いつの間にか、必死に護ろうとする彼を守れる存在になりたいと思っていた。
それが、恋心なのか若しくは只の仲間意識なのか……それは分からない。
けれど、彼を支えれる存在になりたいと思う様になっていた。
それには、女王の力が必要だと自然と気が付く。
彼は、無茶をするから。
それなら、私は無茶にも応えれるくらいには強くなくちゃいけない。
だから…__
「敦くん。大丈夫だよ、落ち着いて。」
私の代わりに、王女は心が引き裂かれ、ボロボロな敦くんを、優しく抱きしめた。
この王女には、形作るだけの力しか使っていない。
少しでも敦くんが反抗しようとすれば、直ぐに消えてしまう。
…けれど、敦くんはただ魂が抜けたように、呆然と立ち尽くしていた。
「……消えろ。」
丁度王女が敦くんを抱きしめたのとほぼ同時に、私の背後で太宰さんは人形を掴み、異能を無効化していた。
すると、ずっと哂っていた不気味なその人形は直ぐに形を維持することさえ出来なくなり、崩れていったのだった。
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作者名:業猫 | 作成日時:2019年9月9日 16時