第127話「ソルの記憶」アグラソル ページ35
「社長!」
「……アグラソルか。何故付いてきた?」
「いろは…上司からの、“念の為護衛”の命令ですので。」
僕が走りながら呼び止めると、社長は振り返り、追いつくまで待って下さる。
社長からの問いかけに、僕は何時ものように微笑んで返すと、少し深呼吸をして息を整える。
僕の息が整ったのを確認すると、社長はまた静かに歩き始める。
「……アグラソル。お前は、何故いろはを慕う?」
「何故慕う…ですか。忘れました、そんなこと。…いえ、正しくは…」
“覚えてない”のです。
僕は挨拶をする様に、ごく自然にそう云う。
「覚えてない、だと?」
「……えぇ。僕の記憶は曖昧なのです。いろはに救われたあの日以前の記憶は無い上に、殆どの記憶は僕には残っていないのです。」
僕は目を伏せ、そう答えた。
僕の一歩先を歩く社長が纏う空気が、困惑の色に染まったのを感じていた。
その時…社長の電話が鳴った。
社長は、無駄のない動きで懐から取り出しパカ…と携帯を開き、通話に出た。
「……進捗は如何だ。」
すると、電話の向こうから国木田さんの声が聞こえてくる。
『ご指示通り、事務員は県外に退避させました。次は、何のように。』
「調査員は全員社屋を発ち、旧晩香堂に参集せよ。」
『晩香堂?……会社設立前に社長が拠点にしていたと云う?』
社長のその言葉に、電話の向こうの国木田さんが、驚いた様な声を出していた。
第128話「ソルの微笑みの理由」アグラソル→←第126話「尋問(後編)」夢主
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作者名:業猫 | 作成日時:2019年7月10日 12時