第53話「ソル」夢主 ページ4
「な、何だ!?」
「おい、本当に大丈夫なんだろうな、武装探偵社!」
そんな声が、再び騒ぎだした乗客の中から聞こえてくる。
幼子が、不安げに私を見つめていた。
「……大丈夫、とはいえ心配になるのも分かる。だから、ここは一つ……私の異能を“試して”みない?貴方達の中から一人選んで、一分間、私にあらゆる手段を使って危害を加えようとしてきて。殴るのでも蹴るのでも善い。それで、もし私が傷ついたなら信用しなくて構わない。けれど……私が無事だったなら、その時はこの列車が無事に次の駅に着くまで……私に従ってもらう。私に貴方達を護らせてもらう。」
どう?と問いかける私に、乗客たちは水を打ったように静かになったかと思えば、再びざわつき始める。
……すると、先ほど私の異能について問いかけてきた青年が私に再び問いかけてきた。
「その一人っていうのは……こちら、つまり君以外の乗客で決めても良いのかな?」
「……?勿論。そちらが決めて構わないし、異能持ちが中にいるなら異能を使っても構わないけど。」
「成程ね。……じゃあ、僕が立候補するよ。」
私がそう云うと、その青年は大胆不敵に微笑みながら……そう云った。
「僕はアグラソル、異能持ちさ。」
そう云った青年に、乗客たちはまるで正義のヒーローでも現れたかの如く、歓声を上げる。
……此れでは私が悪役のようである。
私はちょっと……そう、ほんの少しだけ、落ち込んだ。
其れはそうとして、である。
「……アグラ、ソル……?何で、貴方がここに……。」
異能を解いた青年…アグラソルは、本当の姿を露わにした。
彼の異能は『泡沫の夢』、自身を疑似的に「よく知るもの」に姿かたちを変える事ができる。
……それだけでなく、異能までも。
但し相性が悪ければ威力は落ちるし、発動条件が微妙に変わったりもするのだが。
……そして、何よりすべての異能を使いこなせる訳ではない。
そんな彼は、マフィアの「便利屋」であり、確か今は芥川さんの部下だった筈だ。
「久しいね、いろは。元気にしてたかい?」
「……久しぶり、ソル。……何故貴方がここに?」
「何、仕事でね……。……君を回収しに来たのさ。君は失うには惜しい人材だからね!」
ニッコリと笑ってそう云うソルに、私は思わず身構えたのだった。
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作者名:業猫 | 作成日時:2019年6月13日 11時