眠る禍根に耳なし ページ13
屋敷から、歩いて数分。早足でジネヴラが近寄った墓に刻まれた、ファントムハイヴの名。ご夫婦揃ってお休み中か。
掘り起こして妙ちきりんな儀式で蘇るかもわからない。知らないことに対して断言はできないからな。
少なくとも隣には、未練がましい死神と、不老不死の女(仮)みたいなのがいるのだから、死んでいる者を死んでいるとさえ判断しかねる。まったく、可笑しなのと知り合ったもんだ。
まぁ、今その両方がさめざめと泣き始めたわけだが。
ジネヴラは、レイチェル様の墓の前に膝をついて。
テイカーは、ヴィンセント様の墓を爪で傷つかないように指で撫でつけていた。
「っ、……ぁぁ…レイぃぃ、会いたいよぉ」
嗚咽混じりの声で、その人を呼んで、枯れたような薔薇を抱きしめた。まるで、その花がレイチェル様のように。涙が伝って、花の上にこぼれ落ちる。
すっかり乾いた薔薇が、ほんの少し潤って、咲き初めたような瑞々しさを持った気がした。
まさか、なぁ。
兎も角、貴族の奥様を愛称で呼べるってことは、よっぽど仲が良かったのだろう。
隣で静かに泣く男は、ヴィンセント様と仲が良かった、と言って良いのだろうか。
仕事以上に、どんな関わりがあればこんな美しい涙を溢せるんだろう。
テイカーの、陶器だなんて表現は容易く思える白い肌に、涙がこぼれ落ちていた。
流れ星みたいだ。一瞬、夕暮れの光を浴びてきらりと瞬く。
「ヴィン、セント……」
ヴィンセント・ファントムハイヴ。先代のファントムハイヴ家当主で、悪の貴族。
ヴィンセント、私はあんたが大嫌いだよ。
しれっとした顔で無茶苦茶言いやがって。
目に入るもの全部、自分の手駒だと思いやがって。
___息子たちに何かあったら、よろしく頼むね?
悪かったな、何もできないで。
でもてめぇの息子の一人は、俺なんか必要としてないぞ。
随分使える執事を見つけてやがる。
忌み嫌われる金髪。
呪いにされた揃いのダイヤモンド。
男のような振る舞いに、女の体。
それもこれも全部、何もかも。
あんたのせいじゃないか。
___Aには、正義の味方になって欲しいんだ
「悪を名乗って、よく言うぜ……」
風に掻き消された声は、遠く飛ばされたはずだ。まして、響いているのはジネヴラの嗚咽と、テイカーの涙が墓石に落ちる音。
私の小さな恨みなんかが、聞こえるはずがない。
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足立甚(プロフ) - うっ...最高すぎた (5月25日 9時) (レス) @page25 id: a5c9d3b18a (このIDを非表示/違反報告)
ミィ - やったあぁぁぁ!!続編だ!!この作品大好きなので嬉しすぎます♡ (2021年10月3日 1時) (レス) id: d748bf27c1 (このIDを非表示/違反報告)
坂田銀糖(プロフ) - うわぁぁ、この小説を書いて下さいまして、ありがとうございます。応援してます。続きも気になりました! (2021年9月19日 8時) (レス) id: 4e79a91855 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:Loot | 作成日時:2021年1月14日 22時