じゅうし ページ34
広い屋敷の静かな廊下に、やたらと楽しそうな鼻歌が流れていく。
彼が両手で押すカートの上には、紫峰の作ってくれたテザートの数々が並べられていて…その鮮やかな彩りに、翡翠からは『嬉しい』が鼻歌となって溢れ出していたのである。
呼ばれている…と言われて急いで駆けつけたものの、特段用事があった訳でも無くて。
翡翠がキッチンに顔を出した事を喜んだ紫峰が『和輝と一緒に召し上がれ♪』と用意してくれたデザートを、同じくキッチンに居た五彩メンバーの俊と2人でつまみ食いして…彼に頭をコツンと叩かれた。
「いてっ!!しーくんゴメンね〜。美味しいよ♪ありがと。和もきっと喜ぶよ!!」
「俊まで一緒んなって…もぅ、しょうがないなぁ」
「ごめんごめん。旨そうだったからさ…つい」
いつの間にか、とても仲良くなっていた紫峰と俊に見送られて長い廊下を歩き…ようやく目的の部屋にたどり着くと、ノックも無しにドアを開け、部屋に入っていく。
「和っ!!ただいま〜っ♪あのね、しーくんからデザート貰ってきたよ……………あれ?」
「おかえりなさい、翡翠様」
部屋の中には、目的の人は居らず…訪ねてきていたお客様だけがそこには居て……翡翠は首をかしげた。
「ねぇ、ゴフジンさん。和は?」
「ちょっと海を見てくるって…お出掛けになりましたわ。私がお話した蒼麒お兄さまとの思い出の場所をご覧になりに行かれたのかも。…では、私も…そろそろお暇いたします」
「ふぅん……………」
颯爽と立ち上がり、ドアに向かって歩き始めた詩織の後ろから翡翠が声を投げ掛ける。
「ねぇ、詩織さん。和のこと………いぢめてないよね?」
「え?……なぜ?そんなことを……」
訝しげに振り返った詩織に…翡翠は満面の笑顔を向けた。
「ううん。何でもないの。和…すぐ帰ってくると思うし。じゃね、ゴフジンさん♪」
「……」
部屋から出ていく彼女を見送ると、翡翠はソファにどっと腰掛けた。
「…かず………」
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作者名:芥子 | 作成日時:2017年4月20日 12時