じゅうに ページ32
詩織はスッと椅子から立ち上がると、和輝の後ろに回り込む。
「和輝様…。和輝様は蒼麒お兄さまの事を…どれくらい御存知なの?」
「……どれくらい…って…?」
背後に立たれ、詩織のその表情は見えないものの…その冷たいオーラは和輝の身体を包み込んでくる。
「ご結婚をされる…ということは、すべてをご承知の上…ですわよね?」
「……それは……」
「蒼麒お兄さまは、いずれ『オクヤマ』という巨大な三角形の頂点に立たれる方です。もちろんそれは御存知ですわね」
「………」
「オクヤマの会社をはじめ、たくさんの関連企業の数々…日本国外にもございますわ。それは常に人々の生活に深く関わっている…言うなれば『ゆりかごから墓場まで』…オクヤマは、そんな大企業です」
「………」
「蒼麒お兄さまの肩に掛かっているのは会社の命運だけではありません。そこで働いている社員と、それに連なる家族も…そう、すべてが蒼麒お兄さまに…」
「………」
「彼等を養って行く為には、もっともっとオクヤマを発展させ…『存続』させなくてはならない…」
「…………あ…」
詩織の言わんとしていること…それは和輝がいつも考えてしまうこと。
肩に置かれた詩織の…その白い手の冷たさに、和輝は身体が小さく震えだす。
「あの……貴女は……いったい…」
「私は、蒼麒お兄さまの……『許嫁』です」
ああ…。 なんということでしょう。
そんなお相手が居ない訳がない…蒼麒は大企業の跡取り息子。
自分が愛してしまった人は、そんな人物であったのだと……改めて気付かされた和輝は両手で顔を覆い俯いた。
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作者名:芥子 | 作成日時:2017年4月20日 12時