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じゅういち ページ31

「蒼麒お兄さまって…昔から格好よくて、立ち振舞いは優雅で、頭も良くてカリスマ性もあって、誰からも愛されて…本当に素晴らしい殿方ですわね」


「…そう…………ですか?」


大きな瞳をキラキラと輝かせながら蒼麒のことを褒めちぎる詩織に、和輝は小さく首をかしげた。


「そう……思いませんの?」


「ええ…まぁ。蒼麒は、いつでも一緒に居たがるし、しつこいし、甘えたがるし、愛情表現は過剰すぎるし、言い出したら絶対に聞かないし…」


正真正銘のおバカだし…とは流石に言えなかったけれど、和輝にとっては考え出したらキリがないくらい、詩織が褒め称えるような蒼麒の良い所がまるで見当たらなかった。


そんな和輝の態度は、彼女にはかなり不満だったのか…ちらりと和輝を一瞥すると、手にしていたティーカップをカチャリとテーブルに戻した。


「そのお召し物…素敵ですわ」


「こ…これはっ!!…蒼麒が勝手に……」


ひとり焦る和輝を相手にするでもなく、淡々と詩織の言葉は続いていく。


「それは、おば様の…聡子様の最新作ですわね。一番に袖を通せるなんて、羨ましいですわ」


「………新作?」


和輝の問い掛けに、ビックリしたように詩織が聞き返す。


「まぁ!!御存知ありませんの!?聡子様は欧州でもかなり有名なデザイナーですのよ?」


「……すみません…知りませんでした…」


蒼麒はいつも『うちのかーちゃんは仕事が忙しくて滅多に帰ってこねぇんだ』としか言わないし、かといって、それをわざわざ調べようとも思わなかった。


高級なブランド物など興味も無くて…そんなものは、庶民な自分には『無縁の世界』でしかなかったのだから。


向かい側に座る彼女の軽蔑したような冷たい視線は、ただ恐縮する和輝の身体を鋭く貫いた。

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作者名:芥子 | 作成日時:2017年4月20日 12時

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