きゅー ページ29
和輝が戸惑い、上手く言葉を返せずにいると、少女の後ろに立った先程の執事が彼女について語り出した。
「和輝様。こちらは伊集院家の御令嬢、詩織様でございます」
「初めまして和輝様。お忙しいところお時間をいただきありがとうございます。少し…お邪魔してもよろしいかしら?」
「あ…はい。…どうぞ」
にっこりと微笑みながら、どこか有無を言わせない態度を示してくる彼女に気圧されつつ和輝は後ろに退いた。
「こんにちはっ!!…えっと…ゴフジンさん?」
「こんにちは翡翠様。ごきげんよう」
部屋の中で待機していた翡翠に『ゴフジンさん』と呼ばれたことに特に怒った様子もなく…詩織は碧な彼とも、にこやかに挨拶を交わしている。
「和輝様、お茶を楽しみながら少しお話しをいたしましょう。丸岡、用意を」
「はい、詩織お嬢様。それと…翡翠様。ちょっとよろしいでしょうか?」
「ん!?俺!?なになに?」
さっきから来ていた執事さん、丸岡さんってゆーんだねっ…とコッソリ和輝に耳打ちしていた翡翠は、突然自分の名前を呼ばれてそちらへ歩いていった。
「この客室は、いつ来ても変わらないわね。ご覧になった?窓からの眺めが最高でしょう?和輝様、海の見える窓辺の席にいたしましょう」
いつの間にか窓際まで行き、まるでこちらが客人扱いのような展開をしていく詩織に、和輝は促されるままに付いていくしかない。
「和っ!!ごめんね。しーくんが俺に急用なんだって。ちょっとキッチンまで行ってくるから。すぐに帰ってくるからね!!」
「……ん。行ってらっしゃい」
不安そうな顔つきの和輝に『だいじょうぶっ!!』と口を動かして、翡翠が部屋から飛び出して行く。
「和輝様、詩織様。用意が整いました」
「ありがと丸岡。下がっていいわ。さぁ和輝様、どうぞこちらへ」
恭しく頭を下げて執事が部屋から出て行くと、詩織のその意味の分からない圧迫感をますます強く感じて…。
しかし、逃げ出すことも出来ない和輝は、大人しく彼女の指し示した向かいの席に静かに腰を下ろした。
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作者名:芥子 | 作成日時:2017年4月20日 12時