はち ページ28
執事が辞した部屋で、ソファに座り込んだまま全く口をきかなくなってしまった和輝の隣に座り、翡翠は幼馴染みの艶やかな黒髪を優しく撫で始めた。
「頑張って、和。俺が一緒にいてあげるから」
「………うん」
「どこのゴフジンさんか知らないけど、どっかのオバチャンなんてパパッと片付けてさ、海に遊びに行こーよ♪」
「………うん…」
翡翠の言葉など実は全く聞こえていない和輝は、ただ相槌を打ちながら自分の考えに耽っている。
蒼麒と共にその道を歩くということは…このような事も頻繁にあるということだ。
いつでもどこでも蒼麒と一緒にいるという訳にもいかないのだし、時には彼の名代として出席せねばならない事もあるだろう。
……はたして…自分はやっていけるのだろうか。
『蒼麒と一緒にいたい』と、ただそれだけの感情で安易に考えていたけれど、ひょっとして自分の考えは間違っていたのか…。
何故だか急に冷たくなった指先をぎゅっと握って、微かに震える身体を自分で抱き締める。
「和!!大丈夫!!」
翡翠のそれは全く根拠の無い自信だったけれど、今の和輝にとっては唯一の救いだから…彼は幼馴染みに小さく笑顔を作ってみせた。
コンコン。
翡翠がうなずくのを見た和輝は、大きな深呼吸をひとつすると意を決したように扉へ向かう。
「ごきげんよう」
開かれた扉の先には、年端の経たオバチャンなどではなく…まるで大輪の花が咲いたかのような、こぼれるような微笑みを浮かべた美しい少女が1人、凛としてそこに立っていた。
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作者名:芥子 | 作成日時:2017年4月20日 12時