心配しないで�� ページ16
「いや、ごめんなさい」
義勇さんの傷ついた顔がすごく可哀想に思って謝ってしまった。
「A。何を隠してるのですか」
「…しのぶさん」
この人の勘が鋭いのか私が分かりやすいだけなのか。
きっとどっちもだろう。
「A」
「…ごめんなさい。何も言えません」
俯いてそう呟いた。
これ以上嘘をついた所で見逃してはくれない。
私のミジンコ並みの力じゃしのぶさんから逃げられるわけもない。
「分かりました」
意外と素直に引き下がったその声に驚いて顔を上げるとしのぶさんは眉を下げて笑った。
いつのまにか私から離れた義勇さんもその隣にいて。
「私たちはあなたを信じているから」
その言葉が痛いくらい心に刺さった。
まるで刀で心臓を串刺しにされたみたい。
「…それでも俺は心配だ」
「冨岡さん。余計な事を言わないでください」
「お前も心配してただろう」
話逸れてるのでは。
結局何が言いたいのか分からないふたりを交互に見てると困った顔のしのぶさんが口を開いた。
「嘘をついたのはいけません」
「…う。はい」
「でも、あなたは人を傷つける嘘を付かない」
そう言って微笑んだ。
「…しのぶさん」
「理由は聞きません。信じているから」
涙が溢れそうになるのをグッと堪える。
何も言えない。
伝えてはいけない。
怖くて仕方ない。
「A。俺たちはお前の味方だ」
その優しさが痛くて仕方ない。
この人たちを傷つけたくない。
この人たちのために私は離れなきゃいけない。
「落ち着いたらまた戻って来てください」
「…っ」
「その時に訳は聞きますから」
"はい"なんて言えない。
私には首を縦に振る資格がないから。
「…ごめんなさい、ありがとう」
それだけ言ってふたりに背中を向けた。
涙が溢れてしまう前に。
決意が揺らいでしまう前に。
この場を去ろうとそう思った。
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作者名：enen♪ | 作成日時：2020年5月1日 21時
