相棒へ託すもの ページ13
「…っはあ、はあっ」
なんて悪い目覚め。
悪夢を見た。
私がみんなを食う夢。
胸を押さえて一生懸命息をしないと苦しい。
そして、思い出した。
"「お前を上弦の零にしてやろう」"
どうして忘れていたんだろう。
あの時、首に刺さったのは無惨の指。
たくさんの血が私の中に入ってきた。
「行かなきゃ、隠れなきゃ」
逃げなきゃ。
全部、捨てて。
このままじゃいつか自我を失うかもしれない。
人間を襲ってしまうかもしれない。
誰にも言えないこんな事。
「カアア」
「…カラス」
息を整えて声を出した。
カラスは私に頭を擦り付けてくる。
「カラス、最後の頼みを聞いて…」
鬼化が進んでる。
血の香りに反応するのも
誘惑するような香りを出すのも。
全部、鬼の力が強まってるから。
「お館様に、辞任届を渡してほしいの」
「…」
「ごめんね。私もうダメみたい」
実弥さんの部屋に置いてある筆と紙を借りてお館様へ手紙を書く。
" 何も言わずにいなくなる私を忘れてください "
それだけ書いた。
「これが私との最後の任務」
「俺ハ、オ前ノ鎹鴉ダ」
「…うん」
いつもサボってるくせに。
私に突っかかってくるくせに。
こんな時だけ私の気持ち察してさ、
理由聞かないでお願い聞いてくれるのずるいや。
「私の鎹鴉はアンタだけ」
そう伝えて手紙をカラスの足に縛り付ける。
何も言わないまま障子をくちばしで開けて空に羽ばたいて行った。
「ごめんね、相棒」
もう二度と会う事もないかもしれない。
だけどアンタは一番の相棒だったよ。
「…よし、行こうかな」
布団を畳んで実弥さんへの置き手紙を書こうとした時。
「何してんだァ」
「…実弥さん」
家の主人が部屋に入ってきてしまった。
「もう行くのか」
「はい。ちゃんと足も生えましたし」
そう言って座ったまま足を見せるけど実弥さんは表情を変えない。
「…A」
「何でしょう？」
ぎゅっと後ろから抱きしめられた。
「行くな」
その言葉と共に。
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作者名：enen♪ | 作成日時：2020年5月1日 21時
