当て馬基質 63 ページ18
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ぼう、っと坂田に目を奪われていると 坂田がそれに気付き ん?と首を傾げてから 悪戯っ子の様な笑みを浮かべる。
「 俺に見惚れた? 」
「 っ、」
そんな表情で、こんなことを言うから。
ずっとずっと好きだった人にこんな事言われてしまえば、胸が高鳴るのなんて仕方の無いことで。
私は馬鹿とか何言ってんの、とかそんなような言葉を返して逃げるようにその場から離れ料理の並ぶそこへと移動した。
私がいたそこでは、志麻が私の名前を呼んでいたけれど もう戻りたくないし戻ることも出来ない。接客は坂田に任せればいいだろう。
ーーーーそんな、ことより。
どうして、あんなこと 言ってきたのだろう。
なんだか 最近の坂田は様子がおかしい。
幼馴染みなんて距離からは離れて、それこそ一人の男と女みたいな絡み方をしてくるような時がたまにある。
それに慣れない私の心は、好きな人相手という事もあり単純にときめいて。
…きっと向こうに、他意なんてないのに。
私が馬鹿なことをしちゃったから、幼馴染みの関係が崩れてちゃったわけで。
そのせいで坂田も距離を測りかねて、あんなことをしているわけだ。きっと、そうなのだ。
期待なんてものもしないし、諦めなきゃいけないのも絶対。坂田が当て馬をやっていたように、私もずっと当て馬のようなポジションにいたけれど、そんなもの もう辞めてしまいたいのだ。正直辛いし。
「 …はぁ 」
「 なーにサボってんの 」
小さく溜息をついたところで、ひょこっと調理場から顔を出したのは執事服にエプロン、なんてちょっとおかしな服装をしているセンラで。
ホール担当じゃなかったっけ、と驚いて彼を見つめていると 私の視線に居心地の悪そうに笑みを浮かべて、料理が追いつかなかったらしくて、とのこと。
「 ホール多めに出してたら、こっちが間に合わなかったんやて。んで、たまたま手の空いてた俺が手伝ってんの。臨機応変大切やろ 」
「 さすがセンラだね 」
「 お褒めの言葉を授かり光栄ですお嬢様 」
冗談交じりにそう言ったセンラは盛り付け終わったケーキを私に 手渡し、5番のテーブルに持ってってくれる?と。
「 …色々悩ませてるのは俺もだろうけど、やっぱ今は楽しまんと 」
「 そう、…だね 」
「 ごめんな 」
優しくぽんぽんと撫でられながら放たれた言葉は、なんとなく 私が彼に言わなきゃならない言葉な気がした。
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