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お店に入り通されたのはカップルシートでいたたまれない気持ちになった。
大きな窓からは海が見えて、本当のカップルならさぞかし良い雰囲気になるのだろう。
綺麗な海に付き出す岬はここら辺の人には恋人岬と呼ばれていて、なんて素敵にロマンティックだと初めて聞いたときは思ったけれど、よくよく話を伺ってがっかりした。
一緒に行くと結婚できるとか言うわけではなくて、恋人同士が心中するのに使われる身投げの名所と言うことらしい。富士の樹海とかと同じ部類だった。
「そこのよー、岬の」
「え、何？！」
「めっちゃ食いついて来るじゃねえか。……上から見る景色、どんなだろうな」
まさかコイツかさぶたと心中するつもりではないよね、とじーっと吉良ヒを見ていると、なんだよ、と顔をしかめられた。
かさぶたに恋するだけでもありえないのに、恋破れて身投げとか本当にやめて欲しい。さすがに、かさぶた相手でそれはないだろうけれど。……ないよな？
「綺麗なんじゃないですかね、普通に」
まあ、愛する恋人と最後に目にするのがその景色で良いってなるのだから、相当綺麗じゃないと辻褄が合わないだろう。
「そんなことよりメニュー見ない？」
「そうだな」
頼んだパンケーキが出てきた頃には、席はいっぱいになっていた。待たずに入れたのはラッキーだった。
カップルに人気のお店という文言通りどこを見ても男女二人連ればかりで、カップル(かどうかは微妙だけれど)プラス１みたいなのはいなかったし、多分周りからは私達もカップルに見えている。
今ここででっかい声で宣言したらどうなるのだろう。
私と吉良ヒは全然カップルじゃなくて、そして信じられないけれどコイツが好きなのはかさぶたなんです。
いただきます、と手を合わせてからパンケーキを食べ始める。おいしいねー、という会話を吉良ヒと交わす。
本来なら、そういう会話を交わすのはカップルの二人であるはずだ。
「そのかさぶた、なんて言ってる？」
「かさぶたは喋らないだろ」
そりゃそうだと頷いた。
かさぶたは口ないからパンケーキ食べられないし、おいしいねと言えないし、ていうかそもそも生きてないし。
人間じゃないのだから、かさぶたは喋らないだろうし心もないと私は思う。そして、人がかさぶたを好きになるなんてありえないと本当は思っている。
無性にイライラした。
意味がわからない。かさぶたを好きになるとか、本当に意味がわからない。
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マトリックス(プロフ) - 杳覇さん» コメントありがとうございます^_^ この話自分でも気に入っているので、そう言っていただけてとても嬉しいです！文章も褒めてくださりありがとうございます！！！ (2020年12月4日 6時) (
レス) id: 42c58f3b28 (このIDを非表示/違反報告)
杳覇(プロフ) - コメント失礼致します。かさぶたに恋とは、また新しい発想ですね…！しかも夢小説…！！ 圧倒的文体センスで思わずのめり込んでしまいました。その先の二人について、色々妄想できるのも楽しかったです。素敵な作品をありがとうございました。 (2020年12月2日 23時) (レス) id: 8682462ce1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：マトリックス | 作成日時：2020年4月8日 4時
