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「距離を測りかねたから。お父様の本当の息子ってのが、気になって」
後半は嘘だった。本当は、歳を重ねるにつれて私達のあまりにも近しい距離と自分の恋心との折り合いが付け辛くなったからだ。
恋心に気付いたのが中途半端なあだ名で呼ぶことになった理由、というわけではなくて、多分好きになったほうが先だ。
周りの話によると、幼い私は非常に嫌がられているにも関わらず吉良ヒのあとをついてまわったらしい。うぜえって怒鳴られてもつきまとったとかいうのは、当時の自分ワケがわからない以外の何者でもないが、少なくともその頃既に好きだったということかなとは思う。
年季の入った恋心ではあったけれど、もう手遅れと思うとただ虚しい。
「もーやめよっかなあ。吉良ヒって呼ぶの」
だせーし、と続けた。御曹司か二代目って呼ぼうかな。あだ名の出来はともかく、そっちの方がまだマシな気もした。ついでに、吉良ヒと呼んでたことも、なかったことになればいいと思う。
「決めた。チュルチュルって呼ぶ、これから」
「別にAを責めていたわけではないよ」
「知ってるよ。単純にダサいもん」
「そうかな。俺はその呼び方、結構好きだよ。Aっぽくて」
「そーかな。うーん……タツヤがそういうなら、このままにする」
素直で良いんじゃないか、とタツヤが目を細めて笑った。伏せられた睫毛が長くて綺麗。
「タツヤさーあ、もし私が、タツヤの左目の一番内側の下睫毛に恋してるって言ったら、どうする？」
「嘘ついちゃいけないぞって叱る」
「保護者かな？ 本当だという設定で。マジ恋ね。応援する？」
タツヤは、私のアホみたいなたとえ話に少し考え込む。
「悪いけど、応援はできないな。他に選択肢あるだろうし。一番内側の下睫毛ってチョイスが謎だ」
「だよねー。わけわからないもんね」
「でもまあ、抜けたらAにあげるよ。抜けた奴でも良いのか？」
「えー、どうだろ」
そう言えば、睫毛がいつか抜けるのと同じように、かさぶたも剥がれるはずだ。そう遠くない未来に。
剥がれたやつでも、良いのだろうか？
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マトリックス(プロフ) - 杳覇さん» コメントありがとうございます^_^ この話自分でも気に入っているので、そう言っていただけてとても嬉しいです！文章も褒めてくださりありがとうございます！！！ (2020年12月4日 6時) (
レス) id: 42c58f3b28 (このIDを非表示/違反報告)
杳覇(プロフ) - コメント失礼致します。かさぶたに恋とは、また新しい発想ですね…！しかも夢小説…！！ 圧倒的文体センスで思わずのめり込んでしまいました。その先の二人について、色々妄想できるのも楽しかったです。素敵な作品をありがとうございました。 (2020年12月2日 23時) (レス) id: 8682462ce1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：マトリックス | 作成日時：2020年4月8日 4時
