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両腕を吉良ヒに伸ばし、がっちりと頭を掴む。
「大丈夫だから。私はここにいるから」
そんな言葉が、綺麗な膝小僧をした吉良ヒの救いになるとは到底思えなくて、それでも、床に意味もなく転がされた国語辞典は読むために持ってきたわけではないのだろう。
「来るの、遅えよ……」
「わかりにくいんだよ、吉良ヒ」
危うく、タツヤに借りてしまうところだった。
でも多分国語辞典がなかったら、私は図書室に来ることも、失恋した吉良ヒに駆け寄ることもなかっただろう。
ここにいるのが本当に私で良いのかという疑問はあるけれど、吉良ヒが誰でも良いって言うのなら、泣いている吉良ヒの側にいる役目は、私がちゃんと全うしたい。ろくなことできないけどさ。
頬を刺すくせっ毛に顔をしかめ、肩に顔を押し付けた吉良ヒがたまに漏らす嗚咽を聞く。
邪魔なかさぶたがなくなり綺麗になった膝小僧は体育の時間に服と擦れていたのだろう。ただでさえ取れかけのかさぶただった。
新しい皮膚で出来た綺麗な膝は、そっちの方が良いじゃんね、と私は思う。何も、泣くことないじゃん、かさぶた相手にさあ。
ずび、と鼻をすすった。額から脳天に痛みが抜ける。
私は泣いている吉良ヒを見て、ようやく、吉良ヒロトは本当にかさぶたに恋をしていたのだと気が付いた。
私から吉良ヒへの思いにも、全世界のどんなラブロマンスにだって遜色ない、立派な本物の恋心だったのだ。
頬を温かいものが伝う。
私、吉良ヒに失恋していたんだなあ。
自覚するのが遅い。今更すぎる。知らされたのは3日も前なのに。
後になって、胸がヒリヒリと痛い。
だって、吉良ヒが、かさぶたを好きとか言うから。
びっくりして、うまく傷つけなかったのだ。
失恋のナイフは私を刺して、今ようやく刃が抜けて。溢れ出したのは涙だった。
しゃくりあげる私に、「なんでお前まで泣いてんだよ」と困ったように吉良ヒが言う。
「ごめんね」
別に、吉良ヒに同情しているわけじゃなくて。
吉良ヒは知らないだろうけれど、私だって失恋したばかりなのだ。
失恋は痛くて、悲しい。
傷の舐め合いみたいな醜いの、いつもならごめん被りたいけれど。今だけは許してほしい。
傷ついた心が痛くて痛くてたまらない。
恋破れた私の側に、吉良ヒがいてくれるのはたまたまで。
でも私は誰でも良い訳じゃないから、吉良ヒの頭を離したりはしない。
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マトリックス(プロフ) - 杳覇さん» コメントありがとうございます^_^ この話自分でも気に入っているので、そう言っていただけてとても嬉しいです！文章も褒めてくださりありがとうございます！！！ (2020年12月4日 6時) (
レス) id: 42c58f3b28 (このIDを非表示/違反報告)
杳覇(プロフ) - コメント失礼致します。かさぶたに恋とは、また新しい発想ですね…！しかも夢小説…！！ 圧倒的文体センスで思わずのめり込んでしまいました。その先の二人について、色々妄想できるのも楽しかったです。素敵な作品をありがとうございました。 (2020年12月2日 23時) (レス) id: 8682462ce1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：マトリックス | 作成日時：2020年4月8日 4時
