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いつもは図書室とは無縁の男、吉良ヒこと吉良ヒロト君だが、今日の放課後突然やってきた。
どうやら、本を借りに来たのではないらしい。
カウンターの横に設置されたソファにふんぞり返って座り、茶は出ねえのかと文句を言う。帰れ。
私は、今日に限って図書委員の当番だったことを激しく後悔する。当番でなくて本を読みに来ただけだったら置いて帰ったのに。誰かに押しつけたいと周りを見回すが、図書室には私と吉良ヒ以外に人がいなかった。
「お前に話があって来たんだよ」
当番関係なかった。
普段なら図書室では黙れと諭すところだが、今はこの空間には私達２人。そんなにカリカリすることもないだろうと、「何を」吉良ヒの声に耳を傾ける。
「俺さー……好きなヤツ出来た」
え、と声を出そうとして、ヒュッと下手くそな笛の音みたいな空気漏れが喉を抜けた。
好きなヤツ出来た。
吉良ヒロトに。
サッカーかなんかの話だろうと高を括っていた私は、完全に思っていなかったところからの言葉に、サクッと心臓を刺された。
溢れ出した血液かなんかの汁に溺れそうになって、慌てて大きく息を吸い込む。落ち着け、どこにも傷はついていない。
「ほ、ほんと？ 」
おう、と照れくさそうに頷く吉良ヒ。
ずっと前からの恋心だって、終わる時は驚くほどあっけないんだな、と。他人事みたいに思いながら、めでたいじゃん、と上辺の言葉はするりと出る。
お前の色恋事情、私にわざわざ報告する必要ある？ 幼馴染だから、相談しやすいとでも思ったのだろうか。
「誰？ 何組？」
私がそう聞いたところで、吉良ヒの表情が曇る。笑うなよ、と念を押すような台詞に、笑わないよと頷く。他人に笑われるような相手なのだろうか。蝉の裏側みたいなブスとか、逆に高嶺の花とか。どんな相手でも、吉良ヒなら確実に手中に収めるだろう。うーん、笑おうにも笑えない。
「かさぶたなんだよ」
「は？」
何、何の話？ 首を傾げる私に、吉良ヒは一度額を押さえため息をついてから言い直す。
「だから、かさぶたなんだよ……好きなヤツ」
私は黙って、吉良ヒの顔を見る。
西日に照らされた吉良ヒの顔は綺麗で……まあそれは良いとして、ふざけているとか、嘘をついているとかいうふうには見えなかった。
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マトリックス(プロフ) - 杳覇さん» コメントありがとうございます^_^ この話自分でも気に入っているので、そう言っていただけてとても嬉しいです！文章も褒めてくださりありがとうございます！！！ (2020年12月4日 6時) (
レス) id: 42c58f3b28 (このIDを非表示/違反報告)
杳覇(プロフ) - コメント失礼致します。かさぶたに恋とは、また新しい発想ですね…！しかも夢小説…！！ 圧倒的文体センスで思わずのめり込んでしまいました。その先の二人について、色々妄想できるのも楽しかったです。素敵な作品をありがとうございました。 (2020年12月2日 23時) (レス) id: 8682462ce1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：マトリックス | 作成日時：2020年4月8日 4時
