【薄桜鬼】彼女が凛々しくいる理由 (ページ48)

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あなたに連れ去られたい　※設定外、別夢主ページ48

「私は…千景にころされる運命です。」

婚約を交わされた風間ではなく、他の方と一緒にいるのを見られてしまったから。ここ数日間、籠るように過ごしていた。
しかしAは、風間は既に目星をつけた女鬼が一人いて、彼女を追っていることを知っていた。それなのに、ころされるのは自分の方…。不公平だと思っても、風間家の頭領には逆らえず。

微かに開いた板戸の隙間からAは細い手を伸ばし、男の手を包み込むようにそっと掴んだ。
凍えるほどに冷え込んだ京の冬。Aの手は、かじかんでいた。

「あなた様とお逢いできて本当に良かった。

どうか、お気をつけてね…。」

両手で包み込むAの手を、沈めていた自らの左手で覆いやった。
不知火の体も冷えており、また彼の手も大して暖かいものではなかったが、鼻頭を真っ赤にさせ身を震わせるAにとっては十分に暖かいものであった。

「お前を置いては行けねえ…」

不知火は静かに首を横に振る。

彼は既に都を出る支度を済ませ、この日は故郷に帰ろうとしていた。
せめて別れの挨拶を…と、彼女の料地まで足を運んだのだが、衝撃の事実を知り、このまま離れるわけにはいかなくなってしまった。

「道連れにしたくありません…だから、不知火様だけでもどうかお行きに……。」

涙目で必死に訴えるA。

「どうしてもっと……それを先に言ってくれなかったんだ。」

「…不知火様を…心配させたくなかったから。」

軽いため息を吐いてから馬鹿だな…、と不知火は小さく呟く。

「俺のことなんていいさ。最初からそれを知っていたら、一日でも早くお前を不安と孤独から救ってやれたのにな……」

嘆くように言った言葉だが、対象に何かを決断した意志を含めたようにも聞こえた。

不知火は握り込む両拳にキュっと力を入れた。

「俺と一緒に行くぞ。ここから早く出るんだ。」

次の瞬間、Aの手から離れ、戸を開けると履物を脱いで中へと押し入った。
押されるまま、静かに後退するA。誰にも知られぬように不知火が戸を閉める。

再びAのもとへ振り向くと言った。

「時間が無ぇ。急いで身支度を済ませろ。」

終始涙目だったA。不知火の言葉に自身も覚悟を決め、しっかりとうなずいた。

本当は、最初からこうしてほしかったのかもしれない。

あなたの方から、そう言って私を遠くに連れ去ってほしかったんだ。

ありがとう。そう言って、不知火に微笑みかけた。