{番外編} お師匠(不知火&風間) ページ37
腰に構える長い鞘から刀を抜き出す。
ゆっくり取り出すとしなやかに正面に構え、前に突き出す。
素振りの練習を初めて僅かばかりも経たないうちに何者かの声によって作業は絶たれた。
｢突っつきあって殺す時代は終わりだぜ？｣
遠くから見物していたのか、不知火が高所から飛び降りてきた。
漆黒に染まった拳銃を投げ渡される。
｢ほら｣
｢俺には扱えません｣
渋々受け取ったものの、凸凹が目立つだけの武器としか見えない。
刀しか触ったことの無いAが、使い方など知るわけがなかった。
｢なら、使い方教えてやるぜ！｣
いつもより気合いの入った不知火がニコニコさせながら近づいてくる。
結構です、と言う前に不知火さんは銃の弾を全て抜くと真隣にやってきた。
そして腕を掴まれ、一緒に構え方を教えられる。
背後を覆われるようにして構えられるから、背中にはぴったりと彼の胸が当たっていて、自然と緊張感が襲う。
羞恥のせいか、頭の中は真っ白になった。
これも修行の内の一つ…とAはゴクリと唾を飲んで堪えた。
空の銃を発砲するよりも前に、人影を感じた。
しかし、不知火は平然とした様子で離れようとしない。
｢…何をしている｣
その気配は風間だった。二人の側に現れた途端、不知火はゆっくり腕を解いていく。
目の前で解放はされたが、何を言っても言い訳にしか聞こえないだろう。
｢不知火さんに銃の…ぁｯ｣
言い終わる前に、身体を解いたはずの不知火はAの肩をだき寄せた。
｢なんだっていいだろ？こいつは誰のでもねえんだし｣
相変わらず軽薄で、大様な態度を見せて対応する不知火。
それを見て驚愕のあまり、風間の顔は険しくなる。
｢貴様の言い分には矛盾があるな。先程の扱いと今では見え難いものが大いにある｣
｢…何がしてえんだよ｣
｢いいから其奴をよこせ｣
風間さんによこせ、と言われても尚その手を離さない不知火さん。
俺は黙っているしかなかった。
寒空の下、三尺三寸程空いた距離空間でいがみ合う二人。
決して戦う訳でもなく、互いに優劣をつけさせようとしているのか、厳しい目をしている。
結局あの後は何も起こることも無く＿＿。
夕刻、晩刻と続いて私は、二人に呼び出される羽目になるとはこの時思ってもいなかった。
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作者名：鬼巳 | 作成日時：2017年10月28日 16時
