32 “悟り”(おまけ) ページ32
もはや刀の問題では
無かったのか？
俺は、
自分の性だけで自分を苦しめて、周りにも影響を与えてきたのかな…
性に囚われすぎていた？
数週間後
｢お前はやはり、女物の着物が一番よく似合うな｣
あれこれと試着する私を見て一着一着をじっくりと眺める風間さん。
｢あの、私には一つで十分ですから…｣
風間さんの気持ちは嬉しいが、未だどんなものを着たらいいのかまだ分からなく、戸惑いつつあった。
｢ならば、この俺が最高級の着物を贈ってやろう｣
と、肩を抱き寄せてくる風間さん。
その意図が分からず、私は彼の瞳を見つめ上げる。
・
｢美しい｣
縁側に座って、夜空を眺めている。
その後ろ姿はもう｢風間さん｣といった決して他人の感覚などではなく、｢愛する夫｣として変わりゆくのだと、その時悟った。
風間さんは立ち上がって、私の目の前に座する。
慣れない格好をして座る私を前に、しかし風間さんは特にいつもと変わらぬ表情だ。
｢A｣
彼の大きくて優しい掌が頬に触れる。
その肌を優しく滑る感覚は擽ったくもあり、私の気が誘い込まれるかのような不思議な感覚さえもした。
｢今宵のお前は、この世のものとは思えぬほど美しい｣
｢ありがとう｣
私が応えると、風間さんは優しい微笑みを見せた。
｢…A｣
｢はい。…｣
彼はなにも言わなかったけど、私には何となくその思いがわかった気がした。私は何も言わずに、彼の目をまっすぐ見つめる。
すると、すっ、と腰に手が伸びてきて、二人の体がゆっくりと落ちていく。
千景さん…。
私がそっと名を呟くと、彼もまた、私の名を呼んだ。
これで、素直になれた、と言えるのかな…。
いや、まだはっきりとは戻れていないだろう。
けれど、その腕に飽和される感覚から、Aはしっかり愛を感じ取っていた。
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作者名：鬼巳 | 作成日時：2017年10月28日 16時
