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Aは宿を離れ、兄のいる伊予へ向かった。
兄が自ら、仕事場を提供してくれるらしい。
これも経験のため、と躊躇うことなくその決断を下した。
一方の風間はその旅装を見るなり、ひどく嫌気がさしたような顔をしていた。
それでも、Aは振り向かなかった。
出家する僧の如く、潔く、静かに歩いていった。
それからは、少しばかり空気の変わった日常が訪れた。
本当に少しだが、風間はいつもAの身を探すかのように、無駄に外を出歩くことが多くなった。
｢風間、貴方は自分の立ち位置を分かっているのですか｣
風間の命を守るため、常にそばにいるのが天霧の役目であった。
｢それがどうした｣
｢ここ最近、京では物騒な事が頻繁に起きていると耳にします｣
｢…だからなんだ、｣
｢むやみやたらに出歩かない方が良いかと。｣
｢そんなに心配なら貴様だけ帰ればよかろう。｣
ゆっくり動かしていた足を速める。
天霧は表情ひとつ変えず、風間の後を着いていく。
*
ある、昼過ぎの、場末にて。
ゆっくりと散策をしていた二人の前を、刀が勢いよく突っ切った。
同時に、轟＿＿と強くて冷たい風が吹き、髪が舞い上がる。
｢これは＿＿｣
それには見覚えがあった。
｢見つけた…｣
落ち葉を踏みつけて姿を現したのは、
｢…また貴様か。南雲｣
姿が確認されると、刀を抜いて前に構える。
｢今度は許さないよ？｣
と、南雲も、木に刺さった小太刀を抜き取り手に取る。
｢？さては、貴様も退屈なのか｣
怒りに充ちた南雲の顔を見て顔を顰める風間。
どちらにしろ、風間の内に負けるつもりなどなかった。
額に手を当てるなり、風間と似た表情になる南雲。
｢アイツ…いないじゃん｣
｢彼奴、とは｣
天霧が問う。風間も真剣な表情で答えを待つ。
｢Aだよ。俺は…今すぐあの
その言葉に目を見開く二人。
そして静かに顔を見合わせる。
｢ほう…貴様とAに接点があったとはな…｣
正面に向き直るなり風間は冷静を保ち、慎ましやかな態度をとる。
｢あいつが……破った。裏切ったんだ。だから約束通り、殺 さなくちゃ｣
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作者名：鬼巳 | 作成日時：2017年10月28日 16時
