ナンセンス〇〇 (ページ7)

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アパタイトページ7

二つのゴールデンサファイアは書類ごしに様子を伺っている。

望月のように丸い瞳はおそらく正面の男の顔の左半分、大きな
火傷跡を見つめていた。

細くて柔らかそうな手を机の上にちょこん並べて遠慮がちに顔
を覗かせる様は誰が見たって愛くるしい。

だが、男はその愛らしさに水を差すように憎々しげに溜息を
ついた。

ノートンは幼少からの付き合いであるこの傷跡が大嫌いだ。

街を歩けばすれ違う人々の好奇の視線に晒され、時にはデリカシー
の欠片もなく目を見開いて繁々と眺められもする。

時には嘲りや恐怖の対象にもなった。

誰も彼もがこの傷を異物のように扱い、自分を''普通,,からはじき
出す。

だけど、彼女は一度もこの傷について触れた事はなかったし、
何か特別な反応を示すこともなかった。

余計な詮索はせず、他人のコンプレックスに容易に触れることは
しない、そんなところが気に入っていたのに。

慣れているとはいえ可愛がっていた彼女までと思うと
鉛を落とされたように気分はズンと沈んでいった。

いつもはあれだけ愛好しているゴールデンサファイアの双眸
さえ、憎たらしく写った。

『...ナニカ？』

かろうじて口元は三角形を保っているものの、電球の光を拒んで
いるかのように目は黒々として感情を称えてはいなかった。

''詮索はやめろ,,という彼なりのメッセージ、それを知ってか
知らずかAはゆっくりとした動作で瞬きを一つすると

『...左の肩にトカゲがいます。』

思いもよらぬ答えにバッと顔を左に回すと確かにトカゲが
肩にちょこんと乗っていて、チョロチョロと舌を出したり
しまったりしている。

慌てて払い除けようとして、やっぱり少し考えてから人差し指
と中指でトカゲの腹をひょいと摘むと彼女の手のひらに乗せて
やった。

小さな手のひらの上で動く更に小さなトカゲに目を輝かせる
Aに毒気を完全に抜かれて、同時に自分の自己中心的な
勘違いに呆れて、資料も放っぽり出して椅子にもたれかかる。

『アナタは...この傷をどう思います？』

先程のショックが未だに覚めない心は安心を求めていた、彼女
は他の奴らとは違うという確信が欲しくなった。

例えこれが自ら己を傷つける、愚かしい自傷行為だとしても。

『...？ご主人様は傷があっても無くても綺麗な顔をしてると思い
　ます。』

これまた予想外の答えに面食らっていると、彼女はトカゲを
つれて足速に部屋を出て行ってしまった。