ナンセンス〇〇 (ページ5)

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バイカラートルマリンページ5

アンダルサイトにサンストーン、ローズクォーツ、インカローズ。

各々が放つ美しさに思わず目を細める。

規則的にカットされたジュエリーも宝石の魅力をより引き立てて
いて美しいのだけれど、これらのような原石が持つ無骨な、だけ
ど品がある美しさの方が私は好きだ。

ご主人様は鉱石が好きらしい。

それで、ここ、もといご主人様の寝室に気に入った物を集めて
いるのだとか。

視線を左に動かして、目の端に写る乱れたベッドを確認する。

大丈夫、まだ寝てる。

かれらを眺めることができるのはご主人様と夜を共にした後の
朝、ご主人が起きるまでの間だけ。

この時間はいつも鉱石に見とれて、たまに思い出したようにベ
ッドの上に目を向けることを繰り返した。

喜びと少しの安心に胸を撫で下ろすと再び鉱石を見据えた。

いちご飴のような可愛らしい色と水晶の中で内包物がおりなす
模様が美しい、ストロベリークォーツ。

一眼見た時から心を奪われて、それ以来ずっと好きな石。

見惚れていると、一つの考えが浮かび上がった。

私は鉱石に触ることはしなかった。

私のような立場のものが主人の所有物に触れるなどあっては
ならない。

でも気になる。

一体どんな触り心地なんだろう？本を読めば硬度だとか、化学式
だとかは理解できるけど、質感という人間の感覚でしか共有でき
ないものは千の文字を読んだってわかりやしない。

ご主人様は寝ている、部屋には私だけ、目の前のストロベリー
クォーツ。

私の手は机の一番奥、ストロベリークォーツに向かっていた。

触れようという明確な意志を持って。

心臓がドキドキする、最初のご主人様の万年筆を気になって
手に取ったら叩かれたことがあったっけ？

好奇心には敵わない。

手とクォーツの距離はもうわずか数センチ、私はグッと身を
乗り出した。

『A』

クォーツに指先が届く寸前、耳に慣れ始めた声が真上から降って
きて思わず動きがピシッと止まる。

おそるおそる声のした方に顔を上げた。

案の定、寝起き姿のご主人様がいる。

眉間によった皺は残る眠気のせいか、私の行いのせいか。

怖くなって瞼を涙袋に押し付けこれからのお説教に身構えた。

でも、頭上から降ってきたのは予想に反した柔らかい笑い声
だけ。