ナンセンス〇〇 (ページ14)

今日:10 hit、昨日:7 hit、合計:4,758 hit

アマゾナイトページ14

春が夏に移り変わる束の間の季節。

そんな過ごしやすい季節ももう終盤、すれ違った風は夏の気配
を帯び始めた。

『もし、そこの旦那さん、薔薇はいかがです？』

少々潤いに欠ける声に振り返ると、古びた花屋の前で老婆が
ハサミを手に立っている。

『いや、結構で』

『薔薇は丁度今頃が一番綺麗に咲いてさぁ、ホラ、旦那さん
　色男だから仲のいい女の子くらいいるでしょう？ね。
　だから、その子に持ってってやんなよ。薔薇の花言葉くらい
　知ってるだろう？』

貧乏人は安いものが好き、しかし金持ちはそれよりももっと
安いものが好き、という言葉どおりこの男、ノートンの財布
の紐は兎の前歯だって噛み切れないくらいに固い。

だから無駄な金は出さない、という主義に従って断ろうと
思っていたのに、矢継ぎ早に話す老婆の言葉で家で待つ
可愛いあの子が頭に浮かんで心ともなく財布を取り出していた。

『白と赤、どっちにするよ』

『白で』

『高慢だねぇ』

老婆はいそいそと代金を受け取ると、一輪の白薔薇を差し出した。

『ハイ、毎度ありぃ』

『その前に、一つお願いが』

老婆は面倒臭そうに、しかし直ぐに此方の頼みを終わらせたので、
今度は軽い礼を言って花を受け取り、再び帰路を歩んだ。