◆◇◆ D S H 5 ◆◇◆ 【S】

中華屋の、2人。 ページ23

sideユリ


.






.




「んじゃ、あがりまーす！」


「ユリちゃんお疲れ様ー！」



大学から二駅離れた所のカフェが
アタシのバイト先。


雰囲気とか、オマケで飲めるコーヒーが気に入って
ここに決めたんだけど。



帰りに夕飯食べていこうと
偶然通りかかった中華屋が、めちゃくちゃストライクで。


いつの間にか常連になった。


今日はもう、閉店間際の時間で。
いつもならコンビニ弁当で済ませるところだけど。



きっとアタシは
何かを期待して。


バイト先のロッカールームで
ちょっとだけメイクを直して。


もうお客さんがいないだろう
その時間に、店内に入った。




「.....いらっしゃいませ！あら、こんばんは。」



「.....あの。まだ大丈夫ですか？」



「どうぞどうぞ。」


人の良さそうなおばさんが
アタシの顔を覚えてくれていて。


一番奥の窓際の席に通してくれた。


席について、厨房の奥を見ると
ブラシでシンクを掃除する息子の後ろ姿が見えて
心臓がドキドキする。



「.....今日も、中華丼？」


テーブルにお水を持ってきてくれたおばさんに
笑顔で会釈して


「.....お願いします。」


「はーい！お父さん、いつもの中華丼ね！」

「あいよ！」

中華鍋を準備しながら元気よく返事をしたお父さんと同じタイミングで。



奥の息子が、振り向いた。



目が合ったアタシは
小さな会釈をしたけど

息子はくしゃくしゃの笑顔で
こっちに向かって手を振ってて。



その爽やかさが、アタシの胸を射抜いたみたいに
なんだかキュンとして。


なぜかアタシまで
笑顔で手を振り返してしまった。




それを見た息子は
また背中を向けて仕事を始めて。



ついこの間、学祭であった出来事を
ボンヤリと思い出す。



....アタシ、不覚にも泣いたんだっけ。

なにやってんだか(笑)



あの中華屋の息子の前で
涙を見せてしまったことが
今さら恥ずかしくてたまんない。



もう、アイツの背中は見ないでおこうって
窓際の席でわざと外を眺めて。

でも外が暗いせいで
窓ガラスに映って見える、アイツの背中が
なんだかやっぱり、カッコいい.......



『はい、おまちどおさま。』


向かい側から、おばさんが中華丼を持ってきてくれたのに気づいて、我にかえる。



「.....ありがとうございます。」



小さく手を合わせてから
アツアツのあんかけが乗った中華丼を
少しだけ頬張った。




.



.

.→←.

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す