丗玖 ページ5
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目の前にポツンと置かれた夕餉。視界から消えていった異形の鬼を横目に、女は寝転びながら食事へと手を伸ばした。
これに毒が入っていないことなど、女はとうにわかりきっている。なぜなら鬼舞辻がまだ己を殺さないということがはっきりとわかっていたからだ。
奴の魂胆など、女には手に取るようにわかる。吐き気がするようだが、似ているのだ。愛している男の思考にどことなく。
女は愛を誓った男の顔を思い浮かべながら、器用に箸を使い米を口の中に入れる。どうしてこうなったのかなど、女が一番よくわかっていた。
愛してはいけない人と恋に落ちた。だから己の子すら守れるかもわからず、こんなにも醜く幽閉されている。
「わざわざ黒死牟が去ってから夕餉に手をつけるか。……お前はつくづく私を苛立たせるのだな。」
「あんな異形の顔を見ながら飯を食べろと言うの。私からしたらあなたの方が人を苛立たせるのが得意だと思うわ。」
なんの前触れもせず目の前に現れた鬼、鬼舞辻に女は動揺する素振りを一切見せず、重い体を起こして芋の煮付けに手を伸ばす。
酷く無愛想なその様に鬼舞辻は怒りを超えてもはや何も思わなくなった。どうせ殺すのだ。女が子を宿している限り、鬼舞辻の手から逃れられないのは確かなのだから。
「お前は言わば籠の中の鳥だ。変な気を起そうとなど、思わない方が良い。」
「今逃げようがいつ逃げようが私は死ぬのでしょう。よく言うわね。」
女は乾いた笑い声をあげてから、幾分膨らんできた腹を優しく撫でた。その目はなんとも言えぬ、愛と憂いを帯びた儚げな瞳だ。
しかし鬼舞辻には、これっぽっちもそんな感情がわからない。鬼がゆえに……いいや、完璧を求めるがゆえに遠の昔に捨て去ったものなど、今更感じることもできないのは当たり前である。
それに、彼は感じようとも思わない。己が正しい。常日頃からそう思い、そう言い続けている彼には、自分以外へ対する感情など、苛立ちしか感じないのだ。
「なんて言っておいて、どの面下げて良いのか私にも分からないけれど。」
ふいに口を開いた女は、腹を撫でるのをやめると鬼舞辻に向かい合うように座り、その不気味な瞳を見つめ言う。
「この子には罪は無いの。だから……この子がせめて十五になるまでは何もしないと約束して。」
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作者は気付いた。童磨が全く出てこないということに。過去編長くなりそうなので番外編で補います。申し訳ない。
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ouka#(プロフ) - あるでんとさん» レスありがとうございます…!私の気持ちが作者様のやる気に繋がることがほんっとうに嬉しいです…!!作者様のペースでゆっくり更新してください…!!よろしくお願いします! (2020年2月10日 19時) (レス) id: f2ed9e84bb (このIDを非表示/違反報告)
あるでんと(プロフ) - ouka#さん» 嬉しいコメントありがとうございます。やる気につながります笑今まで通り更新はスローペースになりそうですが、付き合ってくださると嬉しいです。よろしくお願いします。 (2020年2月10日 19時) (レス) id: 484fc6b4f6 (このIDを非表示/違反報告)
ouka#(プロフ) - 続編待っておりました…!!完結まで必ず読みます…!頑張ってください!誰よりも応援しています!!! (2020年2月10日 18時) (レス) id: f2ed9e84bb (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:あるでんと | 作成日時:2020年2月10日 17時