「やさしい光」 ページ10
「暁Aです。よろしくお願いします」
この世界に来てから何回目になるか分からない自己紹介をすると、クラスメイトたちは拍手をして受け入れてくれた。教室を一通り見渡すと、ウエーブがかった栗色の髪をした男の子と目が合った。昨日の見学で、後ろの方で私の様子を伺っていた人たちの一人だ。その近くの席の桃色の髪の子も、サッカー部にいた子だったはず。小さく首で会釈をすると、彼らも少し微笑んで返してくれた。昨日ほどは警戒されてなくてよかった、と少しほっとする。
私にとっては転校初日でも、ほかの人たちにとってはなんてことない普通の一日で、授業も普段通りに進む。
「73ページからだよ」
「あ、ありがとう」
近くの席の人たちが「途中からついてくの大変だろ？」「後でノート貸したげるね」とたくさん手助けしてくれたので、そのあとの授業もなんとか着いていくことができた。その縁で学校について色々教えてもらえたり、お昼ご飯にも誘ってもらえたり…こちらに来てから親切にしてもらってばかりだな、と胸があたたかくなる。
けど、お昼休みも、帰りのHRも、私はずっと２つの視線を感じていた。もちろんあのサッカー部の二人だ。
昨日みたいに怪しまれている感じじゃなくて、話しかけるタイミングを探すような、少しそわそわする感じだ。
「あの、昨日はありがとう」
なので、少し…いやとても思い切って、こちらから二人でいる所に声をかけてみる。二人は少しだけ目を丸くした。桃色の髪をした子が、「ああ、こちらこそ」と返して続ける。思ったよりもずっと低くて凛とした声だった。
「そういえば、まだ名前言ってなかったな。俺は霧野蘭丸。それで、」
「俺は神童拓人だ。よろしくな」
名前を聞いて、ふっと記憶が戻ってくる。この二人は天馬くんに次いで物語に大きく関わっていた人たちだ。特に神童くんは、天馬くんの前にキャプテンを務めていた子だったはず。2人とも立ち振る舞いからしっかりした性格なのが伝わってくる。
よろしくね、と返すと、神童くんが「えっと」と何か言いよどむ。
「うん？…あ、もしかして名前？ふたりの好きなように呼んでほしいな」
「ああ、暁さん。ところで、今日はサッカー部の見学来るのか？」
「うん。迷惑じゃなければぜひ…
って、もしかして、今日ずっとそれを聞こうとしてたの？」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 3人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：飯 | 作成日時：2021年9月2日 22時
