「失うということ」 ページ6
ふと気が付くと、私は深い闇の中にいた。
「…どこなの、ここ」
あれから私は、夕食を食べ終わって秋さんとお皿を洗ってお風呂までいただいて、2人におやすみなさいと告げて自室のベッドで眠りについたはず。それなのに、どうしてこんな真っ暗闇のなかひとりで立ちすくんでいるのだろう。
あたりを見回すが、どこまでも深い暗闇が続くばっかりだ。何気なく自分の手をぐーぱーと動かしてみる。こんなに暗いのに、自分の姿だけははっきりと目で見えるのが不思議だった。
やっぱり、二次元に飛ばされるなんてありえないことあるはずなかったんだ。ここはきっと死後の世界かなにかにちがいない。
「…さっきまでのことは、やっぱり夢だったのね」
「いいや、夢じゃない」
凛としたアルトボイスがあたりに響く。
驚いてはっと息が漏れる。ぐるぐるとまた辺りを見ても何も変わりはない。そんな私を見ているのか、声の主は「そんなにしたら目が回るよ」と笑った。低い声の女性だろうか、いや、声変わりをする前の少年にも聞こえる。
「ねえっ、あなたはどこにいるの?一体だれなの」
「落ち着いて。悪いけど、そちらに姿を見せることはできない。俺が誰なのかも気になるだろうけど、それより先に知りたいことがあるんじゃないのか」
「…知ってるよ。しんだんでしょ、わたし」
声の主は「ああ」と静かに告げると、一息おいてまた話し出した。
「暁Aは命を落とし、どういうわけか別世界に飛ばされてしまった。君は察しがいいからもう分かってるみたいだけど。
ああそうか。弟のことも、本当はもう分かってるんだろ」
なんで木枯らし荘の二人に弟のことを訊かなかったのか。なんで、『ひとりになってしまった』と言ったのか。あの時頭のどこかで分かっていたんだ。けれど聞いてしまえば、もう本当に弟に会えなくなる気がして。いつも私は悪い予感ばかり当たるのだ。
…違う。これはきっと諦めだ。
(弟に…あの子に、習い事さえさせてあげられない)
(優しい家族を教えてあげることができない)
(今日も、お父さんとお母さんは帰ってこない)
私はいつも、心のどこかでぜんぶ諦めていたんだ。
「君の弟は、あの事故で完全に命を落とした。もう戻ってこないよ」
全身の体温が下がるような感覚がした。
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作者名:飯 | 作成日時:2021年9月2日 22時