「やさしい人たち」 ページ26
休日の穏やかな昼下がり。廊下の掃き掃除をしている途中、1階から秋さんが呼ぶ声がしたのでほうきを置いて階段を下りた。
一階に降りてすぐ、玄関がいくつかの大きな段ボールで塞がれているのが目に入った。
「わあ、」
その大きさに固まっていると、私と一緒に呼ばれた天馬も部屋から出てきた。段ボールに視線をやると、同じように固まってしまった。
「この前買ったやつが届いたの！Aちゃんの部屋に運ぶから、二人とも手伝ってもらえる？」
そうだった。
初めてサッカー部の見学に行った日、私は秋さんと二人で大きなショッピングモールに行った。私の部屋に置く家具や洋服を買うためだ。この世界に私が持ち込んだのはゆいいつ、私が死んだ日に身に着けていた私服だけだったため、部屋に置く家具はおろか着るものさえ足りていなかった。
家具は到底持ち帰れる大きさではなかったので、その日買ったものはすべて後日木枯らし荘に届けてもらうよう頼んだのだった。
「はいっ。天馬くん、付き合わせてごめんね。よろしくね」
「いいって！任せてよ」
「よっ、と。ふう」
「これでほとんど運びおわったかなあ」
天馬くんと声を掛け合いながら階段を上り、荷物を置く。普段ここまでの重労働をすることがないので大きく息が上がってしまう。私とは対照的に、天馬くんはまったく息が上がっている様子はない。毎日厳しい練習をこなしているからこんな作業はへっちゃらなのかもしれない。間をあけずに「これがテーブルでこっちがタンスだ」とてきぱき段ボールを開けていた。
「あ！テレビも買ったんだ！よかったね、部屋にテレビなかったらつまんないもんね」
「え、」
少し別行動をしていた間に買っていたのだろうか。断ったのにどうして。疑問が浮かぶのと同時に、胸にぽっかりと穴が開いたような感じがした。
もう、リビングや天馬くんの部屋にいていい理由がなくなっちゃったんだ。
秋さんに呼ばれ、とぼとぼとまた階段を下りた。
「はい、これで最後よ！おつかれさま」
「あ、ありがとう」
片手で持てる重さの紙袋を二つ渡される。「お洋服、もっといっぱい買えばよかったのに」と言う秋さんに、私はだいじょうぶとだけ返した。
「秋さん、…テーブルとか服とかいろいろ…テレビまで、本当にありがとう。すぐには無理だけど、絶対お金は返します」
「…、もう、またそんなこと気にして！いいのいいの」
「でも、」
「ねえ、Aちゃん」
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作者名：飯 | 作成日時：2021年9月2日 22時
