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「っ、」
繋がれた手から、天馬くんの温もりが伝わってくる。私より少し大きくて、少しだけ骨ばった男の子の手。心まで温かくなるような気がした。
「サッカー部の皆、Aが見学に来てすごく嬉しそうだったよ！Aが入部してくれたらもっと喜ぶよ」
「そんな、
「Aは、どうしたいと思ってる？」
天馬くんにそう言われて、言葉が出なくなる。私がどうしたいかなんて、今まで考えたことが無かった。今までやらなきゃならないことが沢山ありすぎて、自分がしたいことを考える時間なんて無かったんだ。天馬くんは「それに、」と続ける。
「神童先輩たちから聞いたんだ。部活のときの皆の顔が、キラキラしてるって言ってたって。
サッカー部を見学してるときのAも、皆と同じ顔してた」
え、と小さく声が出る。
びっくりした。目の前の少年は、キャプテンとして練習中の皆に気を配りながら、フィールドの外の私のことも見ていたのか。
「おれ、Aのあの顔がもっと見たいんだ」
手を握られたまま、また一歩距離を詰められる。大きなブルーグレーの瞳に正面から見つめられ、息をするのも忘れそうになる。あの時と同じだ。私はこの瞳に強く惹きつけられる。目の前の彼から離れられなくなる。いや、離れたくなくなるのだ。
「わたし、私…皆のことをもっと近くで見ていたい。…サッカー部に入って、皆のことをもっと知りたい」
思わずして出た言葉を自分で聞いて、納得がいった。これが私の気持ち、私がどうしたいかの答えなんだ。
天馬くんの表情が、太陽みたいにパッと明るくなった。彼は私の片手を離し、やった！と離れたその手を握り締めて小さくガッツポーズをした。と思ったら、間を開けずに再び片手を差し出される。
「A、これからよろしくね」
握手かな、と思い私も片手を差し出すと、その手をぱっと取られる。天馬くんは私の片手を取り胸の高さ辺りまでもっていくと、今度は両手で包み込むように優しく握った。
「明日一緒に監督に入部届出しに行こう！ねっ」
「…うん」
さっきよりも、あたたかい。嬉しくてふっと笑みがこぼれる。天馬くんはそんな私を見てちょっとだけ目を丸くしたあと、またにっこりと嬉しそうに笑った。
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作者名：飯 | 作成日時：2021年9月2日 22時
