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はっとする。「ごめんね、気づくの遅くて…私から言えばよかったね」と慌てると、霧野くんがいやいや、と返した。
「暁が謝ることじゃない。今日一日ずっとクラスの奴らに囲まれてたろ」
「霧野の言う通りだ、転校生は大変だな」
二人とも困ったように笑った。笑顔になると少し雰囲気が幼くなる。サッカー棟まで一緒に行こうかと誘ってくれたので、お言葉に甘えて着いて行くことにした。
「どうだった？昨日見て。興味出た？」
途中、霧野くんに聞かれる。神童くんも興味あり気にこちらを見ている。
「うん。…すごく眩しかった」
「眩しい？」
「夢中になってサッカーを楽しむ皆の顔が、すごくキラキラして見えたの」
へえ、と霧野くんは微笑む。私が何か続いて言うのを待っているようだ。
「私、皆のあの顔をもっと見たくて。近くで見てみたくなって…それで、今日も見学したいなって」
自然と思いが口からこぼれる。私の、心の奥底からの本音だった。私の言葉を聞いた神童くんが、静かに微笑む。
「じゃあ、もう答えは出たようなものだな」
「…え」
彼の方を見ると、深い茶色の瞳と視線が合った。その綺麗な瞳に数秒見とれる。霧野くんが続いて口を開いた。
「なんならもう入部届書いとくか？着いたらすぐ出せるように」
「えっ、えっ？」
「こら霧野急かすなよ」
冗談だって、と霧野くんは愉快そうにはにかんだ。
「ゆっくり考えてくれて構わない。けどもし入部するって言うなら、俺も霧野も歓迎する」
「マネージャーでも選手でもどっちでもいいよ。待ってるからな」
そう言って笑ってくれた二人に、「ありがとう、」と小さく返した。
言われて初めて気づく。…私は、サッカー部に入りたいと思っていたのか。
空想の中の人物だった彼らを間近で見て、液晶を通して見ていたのとは全く違う気持ちが芽生えた。『皆を近くでずっと見ていられたら、支えられたら』。想像したら、また胸があたたかくなるのを感じる。
「(…でも、私は)」
「Aさん、やっぱりマネージャー希望ですかっ？」
「わ、」
見学中、気さくに話しかけてくれたこの女の子には見覚えがあった。「あっ私、空野葵です！一年生ですっ」と元気に自己紹介をしてくれた。やっぱりそうだ、この子は天馬くんの幼馴染じゃなかったっけ。笑顔がとても可愛らしい。
葵ちゃんと話している間も、皆を見ているときも、心が躍るのとは裏腹に思考はぐるぐると回っていた。
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作者名：飯 | 作成日時：2021年9月2日 22時
