ウェザーリポート (ページ10)

今日:12 hit、昨日:4 hit、合計:21,446 hit

2 ページ10

.

「村上さんこっち来てたんですね」

「異動でなあ。てか村上さんてやめろや、弟と被るやんけ(笑)」

爪楊枝でネギを追い出しながら返事をされる。
……老いたなあ。でも、それは私も同じか。

「昔みたいに信五兄ちゃんて呼んだらええやん」

「呼んだことないわ(笑)」

「あ？そうやった？」

少しお酒の入った彼は頬を緩ませてぽかぽか笑う。
可愛らしいその笑顔は彼が中学生の時と何も変わらない。

綺麗に透き通っていた声は低く掠れるようになったけれど。
肌に少し、疲れが見えるようになったけれど。

「まずそんな話したことも無かったのに(笑)」

「お前俺のこと嫌がってたもんなあ！(笑)」

遠回しに避けていたことを伝えようとすれば直接的に言われる。

「やって信ちゃんしつこいねんもん！嫌がるわあんなん！」

ペースのせいかお酒のせいか、私は昔のように反論する。
面食らった顔をして、すぐにぐしゃぐしゃに笑った。

この人はこんなにも全身で笑う人だったのか。
両手を大きく動かして、体を大きく揺らして。

「なんか昔に戻ったみたいやな(笑)」

「ほんまやね、今日が終わるんちょっと寂しいですわ」

特に深い意味を含めたわけではないけど、隣の同僚は何を勘違いしたのかニヤリと笑って。

「そろそろお開きにしましょうか」

言われた時、机の下でコツンと軽い衝撃。
犯人は信ちゃん。驚いてそちらを見ればさりげなくウインクされた。

ええっと、それはいったい、どういう？

「俺らは飲みなおそっか」

「はい！ぜひ♡」

お持ち帰りに成功した同僚は笑顔で返事をする。
うふふと笑うその顔はまさに野獣だ。
ご愁傷様、お目当ての男性の名前も覚えていないけれど頑張れ。

心の中で合掌していればまたコンコン、と足を蹴られる。

『おれらも』

口パクで言われたのはそんな言葉。
もしかしたら私がそうであってほしいと願って見た幻覚なのかもしれない。

お会計はスマートに払ってくれた男性陣に腰を曲げた。
財布を出す素振りも見せない同僚は何者なんだろう。数多の戦場を乗り越えてきた武士のように見えた。

「それじゃ、A、また明日ね～」

「ちゃんと送ってけよ！」

「どの口が言うとんねん！」

「ほなねー！」

周りの目も気にせずガハハと笑う。
昔なら嫌だったそれもお酒の入った今なら気にならない。
今まで標準語を貫いてきた私も関西弁で手を振っていた。

時間は不思議だ。