ウェザーリポート (ページ9)

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夜雨に紛れて ( Nasu ) ページ9

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今日は朝から憂鬱だった。
仕事が嫌なわけではない。寧ろ好きだ。
鬱陶しく降る雨が嫌だったわけでもない。……まあ、好きでもないけど。

何が憂鬱だったか。
それは昨日無理やり取り付けられた飲み会のせい。

「ねえお願い！晩御飯代浮くと思って！」

「いや！」

「人数足りないの！Aお願いー！」

無理に喋らなくていいから！としつこく言われて根負けした私が悪かった。
どうやらお目当ての人が来るらしいその飲み会とやらに男女比は揃えたいらしい。

確かに渋々ながらに了承した。でも、だからといって。

「二対二とは聞いてない……！」

「黙って」

早めに着いてしまった私たちは個室へ案内されて、並べられた四人分の箸に直面した。
どういうことかと隣の同僚に聞けば黙れと言う。何たる仕打ちか。

「こんばんは～♡」

「こんばんは……」

何オクターブ上げたか分からない彼女の声に圧倒されつつも私も開いた襖を見た。
まさに仕事を終えてそのまま来たような、スーツの男性二人。

思わずその片方、八重歯の光る彼に釘付けになった。

「ごめんね、待たせちゃった？」

「いえいえ！私たちもさっき着いたばかりだったので！」

笑顔で会話する同僚と、たぶんお目当ての人。目がハートになってわかり易い。
八重歯のその人は私と目が合うやいなや少し固まる。

「おうお前何してんねん！？」

「お久しぶりです」

幼馴染のお兄ちゃん来ちゃったよ。
よく家に遊びに行ってたから覚えてる。この八重歯と極端なまでの垂れ目。
上京してきたからもう会うことは無いと思ってたのに。
行くたびに付き合うたんか！とか言ってきたし声が大きいから少し苦手だった。

「知り合い？」

「こいつ弟の元カノや！」

「せやからそういうんちゃいますって、」

「A関西弁出てる(笑)」

そんなやりとりもそこそこに、適当に挨拶して。
すっかり二人の世界に入ってしまった当事者たちを放って私と村上さんで昔話に花を咲かせた。

「すぐお前やって分かったわ」

「変わんないでしょ」

「ぜんっぜん変わらへん！でもそーか、もうこうやって酒飲めるようになってんなあ」

弟交えてまた遊びたいねえ、なんて笑い合う。
声のボリュームを落とすことを覚えた村上さんはぐっと大人になっていた。

スーツが似合って、男前に磨きがかかって。
増えた皺に隠れるように出てきた白髪。だからだろうか。

「あかんネギおる」

変わらない八重歯が懐かしかった。