ウェザーリポート (ページ18)

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「横山くんたちも行ってもうたし、もうちょい練習しとく？付き合いますよ」

「えっと、……いいですか？」

「うん、どんなんしましょか？」

そこにいてくれるだけで十分に映えるからどんな顔でもいいのだけれど。
少し頭を巡らせて、こんなことを口走ってしまった。

「泣けますか？」

演技派でも知られている彼の涙を、この目で見てみたいと思った。
言ったあとで失礼な要求をしたかもしれないと思ってすぐにもう一度口を開く。

「あ、すみま、」

「オッケー、照明はここでええの？」

ちょんちょんとライトを弄ってそう聞いてくる。
少し影になってるけど、これはこれで顔の彫りを強調させて綺麗だ。

大丈夫です。そう言ってファインダーに目を近付けた。

「……？」

私は泣けるかと聞いた。彼は二つ返事で了承した。
なのに、彼は涙を流すことも無ければ流そうとする素振りも見せない。

ファインダーに近付けかけた顔をもう一度離してこの目で直接彼を見た。彼の口元は弧を描いて。

「どしたん？」

さっきまで晴れていたのに、部屋は次第に暗くなっていく。ただ日が陰っただけだと思っていたけど彼の問いかけを通り過ぎて窓を見つめた。

「雨……」

「ほんまや、天気予報は何も言うてへんかったのになあ」

「すぐ止みますかねえ」

どうかなあって言いながら窓に目線をやった錦戸さんの横顔が綺麗で急いでシャッターを押した。
驚いた様子でこちらを向いた彼は、ふふ、とすぐにまた笑う。

「撮影は事務所通してください(笑)」

「ちゃんと事務所通してるんで大丈夫です」

探り探りだけれど軽口を叩けるようになった。
これでもかと垂れた目に伸びる中間地点で急降下する鷲鼻。
何度か芸能人を見てきたけれど、彼はその中でも一段と華やかな世界が良く似合う。

「綺麗な顔……」

「ふ、なんそれやめてよ(笑)」

「あら心の声が(笑)」

もうええって、そう言いながら目をガシガシ掻く。

小さい頃テレビで見ていた彼は怖い人のイメージがあったのに、年を重ねたからか余裕が出来てきたのか、私には分からないけれどとても可愛らしく照れる人だ。

流れるように立ち上がってその顔が窓に反射した時またシャッターを押した。
すべての動きが彼の引き立て役を買ってでる。
ジャケットを正す、たったそれだけの仕草さえも色っぽく見えた。

「、」

窓を流れる雨粒は彼の頬に影を落とす。
ああこの人は、笑って泣くんだ。