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次の日も仕事終わりには雨が降った。
じめじめとする空気に嫌気がさしながらコンビニで買った透明な傘を差して歩く。
今日も昨日の人はいるのだろうか。
なんでオバケや思うたんやろ。
普段そんなに怖がる方では無いけれど、昨日はめっちゃ怖かった。
失礼なことしてもうたなあ……。
今日もゲーム感覚で水溜りを避ける。
もう少しで昨日の自動販売機。その隣にひとつの影。
緊張しながら歩みを進めて、傘の柄をきゅっと握った。
「あ、昨日の。……これ忘れていきはったでしょ？」
「すみません、ありがとうございます……」
腕に掛けられていた私のお気に入りの傘。
それをちゃーんと両手で受け取って丁寧に頭を下げれば、濡れんで、と傘に入れてくれた。
すみませんすみませんって傘を持ち直して距離を取る。昨日は気付かなかったけどハンサムやなこの人。
イケメンや男前というより、ハンサム。不思議な色気の正体は雨のせいだろうか。
「えっと？(笑)」
「……あ、すみません、ありがとうございました、おやすみなさい」
「ふふ、おやすみなさい」
食い入るように見つめて困らせてしもた。
もう一度頭を下げた時、目に入った閉じたままの傘。
ああ、彼はここで誰かを待っているのか。
雨に濡らしたくない、誰かを、ここで。
雨が降る日は必ずそこに、傘を差して彼は立っている。
目が合えば会釈して、目が合わなければ素通りして。
忘れた頃に降り出す雨は私に彼を思い出させた。
雨の降る夜にしか会わない。晴れた朝も、曇る昼も会わない。
雨の降る朝も昼も、会うことは無かった。
会わない日が続くと名前も知らないあの人を探している自分がいる。年甲斐も無く一目惚れでもしてしまったのだろうか。
例えば小降りの雨でも、濡らしたくないと思える相手がいる彼に。
数ヶ月ぶりの豪雨。雷鳴も轟くほどの雨。
加えて私は残業終わりでもうすぐ日付が変わる。
きっと彼は傘を渡して二人仲良く帰路についているところだろう。
そう思っていたのに。
「なん、何してんねん……！」
手に持った傘で雨を凌げばいいのに、彼は律儀にそれを閉じたままただ雨に打たれていた。
急いで私の傘に入れてやれば少し驚いた顔でこちらを見る。
自動販売機の照明に照らされる彼の目は虚ろで、光を含んでいなかった。
「……こんばんはぁ、お疲れ様です」
「ちが、ちゃいますやん、何してんの」
「いやまあ、まあ、……ね」
いや分からへんわ。はっきり喋りーや。
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作者名：柿の種 | 作成日時：2018年4月1日 1時
