ピエロガール (ページ6)

今日:2 hit、昨日:0 hit、合計:28,458 hit

6 ページ6

お酒を煽りまくった結果、
完全に思考なんて停止して大倉くんの話を聞き流す。

この顔面をツマミに飲めるわ私。最高のお酒やわ。

「大学ってどんな感じ？楽しい？」

「楽しいですよ。好きなこと学べるし、イベント多いし、」

ぱ、と目の前の大倉くんを見る。
頬杖ついて優しい顔をする大倉くんはほんのりお酒が入って麗しい。

だからかもしれない。必然だったのかもしれない。

「すき、」

私が大倉くんの目を見つめて、そんなこと言うのなんて。
全部、目の前の男の人が麗しくて私を惑わすからだ。

白々しく目を見張る大倉くんは瞬く間に狡猾な笑みを浮かべる。
私もその笑みで、自分を殺す覚悟を決めた。

「俺も」

コンサートのため。そう言い聞かせて頑張ってた自分磨きはついに実を結ぶ。
そっと机の下で繋がれた手。私は自ら大倉くんの掌に飛び込んでいった。

小賢しくて、あざとくて、そんな女の子になりたい。
誰もぐうの音が出ないような、大倉くんに見合うような女の子に。

付き合って三ヶ月。
実際に会えたのは両手で数えるくらいしかない。

それでもほとんど毎日連絡は取り合って、大学での出来事を大倉くんに話した。
大倉くんは未だに自分の仕事の話なんてしないし、私もファンだということをひた隠しにする。
そんな関係でも意外と成立していた。

「今忙しい？」

大倉くんは、釣った魚に餌をやらないタイプだと初めて知った。
いつだって連絡をするのは私で、返ってくるのはその数日後。
手離したくない、そう思わせたい一心で連絡を待ちながらただただ自分を磨く。

なのに、どうして。

何日経っても、どれだけ待っても、大倉くんから連絡が返ってくることは無くて。

「おかけになった電話番号は、」

現代に慣れすぎた自分のせい。
互いの家さえ知らなければ、行きつけのお店だって知らない。
私たちはスマホという液晶の中で生きていた。

口と財布の紐は緩まない幼馴染のハルにだけ、大倉くんとのことを話していた。
今日だってそう。ハルは私を心配して電話をかけてくれた。

『それで、あんたの彼氏今生放送で輝いてるけど』

「ほんまめっちゃかっこいいよなあ」

『この後会うの？』

「ううん、大倉くんは、ほら。」

「カノジョさんと会わなあかんから」

大倉くんは釣った魚に餌をやるどころか、毒を盛る。
筋トレを終えて、私は靴箱からニューバランスを取り出してどこのブランドか分からないヒールを片付けた。