Puissance【 sn 】 (ページ40)

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# 06 ページ40

【 Side : Pink 】

「…そうだったんだ」

自分の部屋にあべちゃんを連れ、ベッドに座らせる。

あべちゃんが語る、あの日からの話。

誘拐され、家まで帰ってきた頃には

もう何も感じなくなっていたらしい。

誘拐犯にされるがままになっていた自分への惨めさと

家に帰り安心できるという気持ちも湧いてこない恐ろしさで

ただただ無心で家路への車窓を眺める事しか出来なかった、と。

勿論学校は転校し、通信制の高校に転入。

そこからひたすら勉強し、

自分を支えてくれた塾の先生のようになりたいと塾講師を志望。

そして大学院を卒業、

今はかつて通っていた塾の講師として働いているそう。

「悔いはないよ」

彼は笑みを浮かべて呟いた。

能力に囚われ、生きていくのが精一杯なあべちゃん＿＿

＿そんな姿を想像していたのに。

実際会って話したあべちゃんは、

想像の何倍も前を向いていて、強くて、明るくて…

「でも。我儘を言うなら、ね？

こんな能力なんて要らない。って」

頭をぐしゃぐしゃと掻きながら苦笑いするあべちゃん。

＿＿あぁ、やっぱり受け入れられなかったんだ。能力。

予想が当たっているのに喜べない。

寧(むし)ろ苦しさが心の中に立ち込めた。

「ねぇ、あべちゃん」

反射的に彼の手を握っていた。

「俺、あべちゃんのこと守りたい」

「…どうしたの、佐久間。急にカッコいいこと言って」

「あの時支えられなかった分を、…今…全力で支えたい

＿＿だからさ、此処で一緒に暮らさない？

突然すぎるかもしれないけど…その、ずっと一緒に居られるし」

「…相変わらず佐久間はぶきっちょだなぁ、

嬉しい。ありがとう。…でも、ごめんね

俺なんかがここに居て良い訳ないしさ？

また体調が優れたら家にも帰んなきゃだし…」

あべちゃんの手が、柔らかい風と共に離れる。

久し振りに目を見て、ブラウンの御髪を見て。

彼の手と温もりが離れ、

漸く俺は彼との距離が遠くなってしまったことを悟った。

＿＿身体の距離だけでなく、心の距離さえも。