# 04 ページ38
【 Side : Green 】
雨は嫌いだ。
＿＿誘拐されたあの日の記憶が蘇るから。
出来ることならば雨が降る日は外に出たくない。
部屋に転がるヘッドホン。いつも閉めたままのカーテン。
お守り程度に吊るしたてるてる坊主。
弱い自分に嫌気が差す。
今日だって、宮舘さんに助けてもらえなかったら
どうなっていた事やら…
なんて＿＿そんな事を考えるのもきっと無駄。
毎日が
あの日から、もう1週間も経ったのに、
鞄の中にはフカザワさんからの連絡先が残ったまま。
怖いと拒否しているのなら、きっとこの紙は今頃燃えている。
＿＿もしかしたら、なんて。
この状況を打破出来るんじゃないか、なんて。
「＿せんせい！あべちゃんせんせー！」
「お、ごめんごめん…呼んでた？」
「呼んでたよー。もー…あべちゃんせんせ、ここ教えて」
「先生は友達じゃないぞ、言葉遣い考えろよー。
で、半径9cmの……」
塾の生徒に呼ばれている事に気付かず、
ぼーっとしてたらナメられる始末。
数学のプリントに赤いペンで添削をして、説明をしていった。
「せんせー！分かりやすかった。ありがと」
「はいはい。また分かんないとこあったらおいで」
さよならー、と複数人の生徒が帰っていった。
外を見ると、もうすっかり雲は真っ黒。
降水予想時間は16時。今の時刻は17時。
耳を傾けまいとする程、雨音が強くのしかかる様だった。
「…すみません、今日は帰らせて頂いても良いですか」
「良いよ、大変だよね…送ろうか？」
「いえ、大丈夫です…ありがとうございます」
勤務歴でいくと大先輩に当たる櫻井さん。
俺のトラウマの事情を知っているから、
今日は早退させてもらうことに。
…とはいえ。
塾の玄関を出ると、更に聞こえる雨音。
足が竦んで、うまく歩けない。
「…っ、はぁ、」
＿＿ひとりじゃ家に帰れそうもない。
申し訳ないけれど、
……フカザワさんを頼ってみようかな。
ごめんなさい、と心の中で何度も唱えながら電話を掛ける。
『もしもし、』
「あ、あの、この間助けて頂いた、阿部です、っ」
『あ〜阿部くんか！どうしたの？』
「…良ければ、っ助けて…ください…」
『お、頼れたの、偉いよ阿部くん。何処に居る？』
．
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作者名：朱黒 | 作成日時：2021年6月24日 22時
