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なるせと合流してはや5分が経とうとしている。未だに自販機前から動きのない私たちは、中身のない会話をひたすら続けていた。
「……そういえば、」
「ん?」
「なんで私呼び出されたの?」
そうだ、すっかり忘れていたが、私は呼び出されたのだ。開演前にわざわざ呼び出すなんて、何か重大なことがあったに違いない。そう思い切り出してみれば、なるせは「ああ!」と声を上げた。その大きなリアクションにつられて、何かあったのか、と改めて聞けば、よくぞ聞いてくれたと言わんばかりの表情で返される。そのニヤけている顔を見るに、あまり良くない話だろう。
過去の経験を振り返ってみるが、この表情のなるせから出た話はろくなものがない。そのまま少しだけ身構え、やがて放たれたその言葉は、あまりにも衝撃的なものだった。
「Aを、俺達の楽屋に招待しようと思って。」
「………?」
「………聞こえてる?」
「…………」
驚きすぎると声が出なくなるというのは本当だった。俺達、楽屋、招待。どうにか単語ごとに理解しようと思っても駄目だ、単語が駄目だ。
「ごめん、もっかい」
「Aを!楽屋に!招待しようと!思いまして!」
「……あーーーはい、成程ね。」
ご丁寧にどうもありがとう、理解はした。だがそれは、即座にはい分かりましたと答えるには中々難しいものだった。楽屋に招待ということは、それは勿論あらきさんがいらっしゃるということ。そしてそのあらきさんとは、大好きな推しな訳で。無意識のうちに顔が歪んでいく。やっぱりこの男から出た話にはろくなものがなかった。
「あっはっはっ、顔おもろ、A」
「笑えないわ!ばか!」
「だってっ、あっはっはっはっ」
目の前には、人の気も知らずに笑っている男。そんな中私の頭の中では、天使と悪魔の葛藤が繰り広げられていた。私もただのファンなのに、と。他のリスナーの方々に申し訳なさすぎる、と。そうボソボソと声を発する私とは対照的に、なるせはあっけらかんとして話し出した。
「そんなさ、気にしなくてよくね?俺がおいでって言ってんだからさ」
「……いいのかなあ」
「いいってば、本音はどーなの、ぶっちゃけ。」
少し悪い顔をしたなるせが、私の顔を覗き込む。もう、お見通しって訳だ。ごめんなさいリスナーの皆様、今回きりだから許してください。
「……め、めちゃくちゃ行きたいです」
「うん、はい決定〜」
拝啓お母さん、お父さん、今までありがとう。
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こんぺい - 最推しの小説を探しててやっと見つけることが出来ました!!!出会えたこの作品と作者様に感謝です、、、、 (2021年11月23日 23時) (レス) id: 08c835e323 (このIDを非表示/違反報告)
美波(プロフ) - 本当に好きです!この作品!! (2021年8月30日 4時) (レス) id: 17ad6f88d5 (このIDを非表示/違反報告)
ゆら - 続く、、続く、、更新めっちゃ頑張ってください、、(なんかプレッシャーになってたらすいません) (2021年6月27日 4時) (レス) id: f269c77d86 (このIDを非表示/違反報告)
小梅 - なぜ今まで読んでいなかったんだ…… めちゃくちゃ面白くて続きが気になります! (2021年6月21日 18時) (レス) id: 7947c0ed70 (このIDを非表示/違反報告)
涼 - あらなるがかわいすぎる...更新頑張ってください!!! (2018年8月24日 13時) (レス) id: d379028483 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:瑞乃。 | 作成日時:2017年11月10日 22時