検索窓
今日:29 hit、昨日:15 hit、合計:155,221 hit

story 10 ページ10

·


なるせと合流してはや5分が経とうとしている。未だに自販機前から動きのない私たちは、中身のない会話をひたすら続けていた。


「……そういえば、」
「ん?」
「なんで私呼び出されたの?」


そうだ、すっかり忘れていたが、私は呼び出されたのだ。開演前にわざわざ呼び出すなんて、何か重大なことがあったに違いない。そう思い切り出してみれば、なるせは「ああ!」と声を上げた。その大きなリアクションにつられて、何かあったのか、と改めて聞けば、よくぞ聞いてくれたと言わんばかりの表情で返される。そのニヤけている顔を見るに、あまり良くない話だろう。

過去の経験を振り返ってみるが、この表情のなるせから出た話はろくなものがない。そのまま少しだけ身構え、やがて放たれたその言葉は、あまりにも衝撃的なものだった。



「Aを、俺達の楽屋に招待しようと思って。」
「………?」
「………聞こえてる?」
「…………」



驚きすぎると声が出なくなるというのは本当だった。俺達、楽屋、招待。どうにか単語ごとに理解しようと思っても駄目だ、単語が駄目だ。



「ごめん、もっかい」
「Aを!楽屋に!招待しようと!思いまして!」
「……あーーーはい、成程ね。」



ご丁寧にどうもありがとう、理解はした。だがそれは、即座にはい分かりましたと答えるには中々難しいものだった。楽屋に招待ということは、それは勿論あらきさんがいらっしゃるということ。そしてそのあらきさんとは、大好きな推しな訳で。無意識のうちに顔が歪んでいく。やっぱりこの男から出た話にはろくなものがなかった。



「あっはっはっ、顔おもろ、A」
「笑えないわ!ばか!」
「だってっ、あっはっはっはっ」



目の前には、人の気も知らずに笑っている男。そんな中私の頭の中では、天使と悪魔の葛藤が繰り広げられていた。私もただのファンなのに、と。他のリスナーの方々に申し訳なさすぎる、と。そうボソボソと声を発する私とは対照的に、なるせはあっけらかんとして話し出した。



「そんなさ、気にしなくてよくね?俺がおいでって言ってんだからさ」
「……いいのかなあ」
「いいってば、本音はどーなの、ぶっちゃけ。」



少し悪い顔をしたなるせが、私の顔を覗き込む。もう、お見通しって訳だ。ごめんなさいリスナーの皆様、今回きりだから許してください。


「……め、めちゃくちゃ行きたいです」
「うん、はい決定〜」


拝啓お母さん、お父さん、今までありがとう。

story 11→←story 9



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 10.0/10 (281 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
612人がお気に入り
設定タグ:歌い手 , あらき , nqrse
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

こんぺい - 最推しの小説を探しててやっと見つけることが出来ました!!!出会えたこの作品と作者様に感謝です、、、、 (2021年11月23日 23時) (レス) id: 08c835e323 (このIDを非表示/違反報告)
美波(プロフ) - 本当に好きです!この作品!! (2021年8月30日 4時) (レス) id: 17ad6f88d5 (このIDを非表示/違反報告)
ゆら - 続く、、続く、、更新めっちゃ頑張ってください、、(なんかプレッシャーになってたらすいません) (2021年6月27日 4時) (レス) id: f269c77d86 (このIDを非表示/違反報告)
小梅 - なぜ今まで読んでいなかったんだ…… めちゃくちゃ面白くて続きが気になります! (2021年6月21日 18時) (レス) id: 7947c0ed70 (このIDを非表示/違反報告)
- あらなるがかわいすぎる...更新頑張ってください!!! (2018年8月24日 13時) (レス) id: d379028483 (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:瑞乃。 | 作成日時:2017年11月10日 22時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。