林檎色の恋【ark】

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Araki side



なるせが楽屋から出て行ってから何分経っただろうか。特にすることもなく暇を持て余していた俺は、スマホを手に取りTwitterを開いた。そのまま覗いた通知欄はリスナー達のアルバム等の感想で埋まっていて、その一つ一つに目を通していく。

今回のツーマンライブに合わせて発売したアルバムは、嬉しいことにとても好評だった。楽屋に1人取り残された俺はソファに腰をかけ、その収録曲のワンフレーズを口ずさむ。



「…………俺のリスナーさん、ねえ。」



ふと、なるせの言葉を思い出した。ここに招き入れるという友達は俺のリスナーさんで、女性だと。悪い奴ではないから、と。元々嫌な気は全く無いし、自分のリスナーに会えるというのは純粋に嬉しいものだ。まあ、あと数時間もすれば、ステージの上で沢山のリスナーに会える訳だが。

とまあそのお友達さんとこの後お会いする訳だけれど、気持ちとしてはリリイベとかハイタッチ会とか、何らかのイベントの様な気持ちでいる。いつも通り、当たり障りなく、分け隔てなく。なるせの友達とは言えど、俺のリスナーであることには変わらない。ファンである以上それ以上でもそれ以下でもない。色恋沙汰の為に音楽を続けてきている訳では無いのだから、距離感として一線を置くというのは当然の事だろう。

こんな事を思ってしまう俺は、嫌な奴だろうか。一瞬そんな考えが過ぎったが、いやいや、と誰もいない部屋で1人、首を振った。俳優やアイドルに恋愛感情を抱いてしまう……なんて事に偏見などは全く無いし、自分たちが活動しているこの界隈にもそのような話は少なくない。もしかしたら、自分自身にその気持ちを抱いてくれている人もいるかもしれない。……でも俺には、それをこちらへ持ち込む気は一切なかった。

プライベートに介入できるような期待を持たせたり、恋心を利用するような売り方をして来たつもりはないし、そしてこれからもするつもりは無い。……まあ、あくまでこれは自分の活動方針の話で。こんなただの人間に憧れや興味を持って頂けるのは嬉しいこと。だから、その全てを自分なりの音楽で返したいと思っているのだ。



「………んーー。」



ああ、はやく歌いたい。ステージに立って、みんなの顔を見たい。そんな事を思いながら、ふう、と息をつき時計を確認すると、更に5分程進んでいる分針。もうすぐこちらに着くであろうお友達さんに会えるのを楽しみにしつつ、なるせ達の戻りを待った。

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