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「志麻ちゃんにはこれくらいで充分ですぅー!
ほら早く寝癖直して!」
ん!と頭を突き出してくるA。
その動きに沿うように鼻先を掠めるシャンプーの香りにドキッとしたことを隠すように少々乱暴に寝癖を直す。
「ちょっとー!
志麻ちゃんもう少し丁寧にしてくれないっ!?」
「充分丁寧にしてるわ」
指先をすり抜けていく艶のある髪の感触が心地良くて。
それでも今のままの関係にオレ一人は居心地の悪さを感じていた。
と、言うのもオレは目の前の幼なじみに哀しいほどの一途な片想い中。
だからと言ってAに好きな人がいるのかといえばそうではないようだが……。
僅かなチャンスに賭けて伝えたとしてもし玉砕したら……と考えるとやはり踏み留まってしまうのだ。
「ほら、これでえーやろ」
「ありがと、志麻ちゃんっ」
毎朝見せる嬉しそうな満面の笑み。
“好き”
その度に募るそんな気持ちを心の中では何度も何度も繰り返し呟くというのに……
肝心の本人に伝えることは多分……無いやろうな……
そんなことを考えながらふと見上げた初夏の空。
まだ朝やのにもう日差しはきつく照りつけて真っ白い雲が青空に貼り付けられたように浮かんでいる。
そんな空に指文字でなぞる“好き”の二文字。
「ん?
志麻ちゃーん何してんのっ?」
「別にー?」
「えぇー」
不服そうにしながらも少し先に行ってたAは振り返った後でまた前を向いて歩き始める。
こんな簡単な二文字が口に出せへんなんて。
いつもいつも告白相手はその後ろ姿。
そうしているうちに校門が見えてきて到着を知らせる。
クーラーがようやく設備された教室に早く駆け込みたいと思う反面……
「あ、A先輩っ。
おはようございます」
「おー、拓人くん!
おはよう」
最近になって教室に入るまでのこの一時がオレは嫌になってる。
……ったく、なにが“あ、”やし……
偶然会いました的な感じ醸し出してるけど実際ずっとここ張ってんねやろ……
……っと。
あかん、あかん……。
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作者名:モコ | 作成日時:2017年6月24日 23時